タイの製造拠点運営で重要な2つのこと
タイという国は「微笑みの国」ともいわれ、親日国で日本人が生活するにはとても良い環境の国だと思う。
しかし、製造拠点の運営という観点では、事前に考えておくべきことがあり、その課題はおそらく、タイに限らずアジアの製造拠点に共通、もしくはこれから共通になるだろうと予想している(もちろん、そのレベルや対応の困難さは進出国により異なるが、大なり小なり、このようなことに悩んでいる製造拠点が多いのが実態である)
◆タイの法律、文化・風土を理解しているか?
まずはタイの法律を理解・順守すること、そして文化・風土を理解することである。法律を守るためにそれを理解し、適用のために専門家と連携することが大切だ。また、法律は時間とともに変化することも多いため、タイムリーな適応のためには情報収集が不可欠。専門家との連携は必須だと感じている。
確かに、日本にいても各種情報から当該国の歴史、文化、風習などは理解できるが、頭で理解するのと違い、実際にタイで生活し、タイ人と接することで初めて文化・風土を体感でき、それに適応できるようになる。まさに現地に入り込み、溶け込むことが求められるのである。
◆人材の確保・育成の困難さを覚悟しているか?
次にお伝えしたいのが、企業運営の最重要なインフラである人材の確保・育成についてだ。2020年12月に発表されたタイの失業率は、新型コロナウイルス感染症流行前水準の1.5%に戻りつつあるが、失業率の低さに輪をかけて、いったん帰省したワーカーが戻って来ないなど、採用や人材確保の難しさが常態化している。
また、数だけではなく、質の問題もある。採用の際に経験、学歴を確認すると希望を満たす人材が応募してきていないということがある。学歴の面からみても、日本でいう大卒レベルの人材は少なく、高学歴の人材獲得はより困難な状況だ。
育成についても、基礎学力の違いや言葉の壁により、コミュニケーションが困難な上、日本では通用するOJTも指導できる人が少ないために機能していないのが実情である。
このような環境下でいかに人材を確保・育成するかは、どの企業においても大きな課題となっているように思う。
本稿ではアジアで製造を行うことの意義、目的、海外で製造拠点を運営することの難しさの一端について紹介した。次回からは製造現場にフォーカスした生々しい実態やその処方箋について整理していく。
コンサルタント 角田賢司(つのだ けんじ)
生産コンサルティング事業本部
プロセス・デザイン革新センターセンター長
兼 デジタルイノベーション事業本部 シニアコンサルタント
IEをコア技術として収益向上のコンサルティングに取り組んでいる。自動車(部品)、化学プラント、樹脂成型、建材、食品等、多業種で収益向上の支援を実施。現場の生産性向上、品質向上、調達コストダウンや在庫削減等複数テーマを同時に展開、マネジメントの支援を行う。近年はタイ・中国等の製造拠点支援として生産性向上や品質向上の成果実現と併せ、マネジメントの仕組みづくり、ローカル人材育成を実践