価値が安定し、便利に使えるデジタルマネーが求められている

 このように考えると、ビットコインを「法定通貨」にする動きが今後広がっていくことは、なかなか考えにくいように思います。

 しかしながら、移民や出稼ぎ労働者の方々も安価に、便利に海外送金ができるようにしたいというニーズに対しては、金融界全体として真摯に対応していく必要があります。エルサルバドルのニーズも、「ビットコインを法定通貨にする」こと自体が目的ではなく、海外からの送金の利便性向上や国内で「銀行口座を持たない人々も金融サービスを使えるようにする」という「金融包摂」が本来の目的と捉えるべきでしょう。この点について金融界が十分に取り組まなければ、「一国二通貨」のような極端な発想も生まれやすくなります。

 金融界としては、技術革新の成果も取り込みながら、価値が安定し、同時に安価な送金やスマホでの支払いなどさまざまなニーズにも応えられるデジタルマネーを創り出していくことが求められているように思います。エルサルバドルの今回の決定は、金融界に一段の努力を促しているものとも言えるでしょう。

◎山岡 浩巳(やまおか・ひろみ)
フューチャー株式会社取締役/フューチャー経済・金融研究所長
1986年東京大学法学部卒。1990年カリフォルニア大学バークレー校法律学大学院卒(LL.M)。米国ニューヨーク州弁護士。
国際通貨基金日本理事代理(2007年)、バーゼル銀行監督委員会委員(2012年)、日本銀行金融市場局長(2013年)、同・決済機構局長(2015年)などを経て現職。この間、国際決済銀行・市場委員会委員、同・決済市場インフラ委員会委員、東京都・国際金融都市東京のあり方懇談会委員、同「Society5.0」社会実装モデルのあり方検討会委員などを歴任。主要著書は「国際金融都市・東京」(小池百合子氏らと共著)、「情報技術革新・データ革命と中央銀行デジタル通貨」(柳川範之氏と共著)、「金融の未来」、「デジタル化する世界と金融」(中曽宏氏らと共著)など。

◎本稿は、「ヒューモニー」ウェブサイトに掲載された記事を転載したものです。