法定通貨単位が2つに?

 一般に「法定通貨である」とは、(1)金銭債務を支払える(法定通貨を支払に差し出せば、受け取る側は嫌とは言えず、受け取らなければ「受領遅滞」となる)、(2)税金など公的な支払いができる、ことを意味します。

 では、ビットコインがそのような「法定通貨」として直ちに機能するかと言えば、なかなか難しいようにように思います。

 まず、エルサルバドルは、米ドルも法定通貨であり続けると言っています。すなわち、一国の中に2つの法定通貨単位を持つことになります。これは、経済学的には大きな非効率性やコストにつながると考えられています。例えば、さまざまな取引の都度、両者の換算レートを決めなければいけなくなります。だからこそ近代以降、各国はそれぞれ中央銀行を設立し、これにソブリン通貨の発行を独占させることで、法定通貨の単位を「円」や「ドル」「ポンド」など1つに統一してきた歴史があります。

価格変動のリスクは誰かが負担

 また、支払決済手段として最も重要なことは「価値の安定」です。この点、米ドルは米国の経済力や制度、法律、連邦準備制度などに支えられた信認のある通貨です(だからこそ、いくつかの国々は信認の低下した自国通貨を放棄し、米ドルを法定通貨にしているわけです)。一方でビットコインは、最近ではテスラ社CEOの発言で価格が大きく動いたことが示すように、その価値変動(ボラティリティ)は極めて大きく、これに伴うコストやリスクは、社会の中で誰かが負担しなければなりません。

ビットコインの価格変動は歴史上のさまざまな「バブル」よりも大きい

 例えば、税金を払う時には、金額が予めわからなければいけません。「税務署に向かう途中に税額が変わっている」のでは困るからです。仮に朝、「あなたの納税額はドル建てではいくら、ビットコイン建てではいくら」と告げられたとしましょう。その後、日中にビットコインが値上がりすれば、人々はビットコインを米ドルに換えて、米ドルで払おうとするはずです。一方で、ビットコインが値下がりすれば、そのままビットコインで払おうとするでしょう。そうなると、政府の税収が著しく不安定になってしまいます。