アフターコロナにおける品質マネジメント課題は何か?

 品質保証の課題についてはコロナ以前から議論され、さまざまな取り組みが行われてきた。しかし、コロナ禍で状況が一変し、これまでの取り組みだけでは対応しきれない課題も増えてきたはずだ。どのような課題が生まれているか、生まれてくるかを、「戦略」「仕組み」「実施」「基盤」の4つの領域の観点から考察する。

■「戦略」領域の課題
 ここで論点になるのは、「生産の変化に対応できる品質保証体制の柔軟性」であると考える。今後は原材料や部品の供給体制、生産拠点の変更やBCP観点からの代替生産サイトの準備、短期切り替えを可能にするための準備が進むだろう。

 その際は人員配置を含めた品質保証体制面も同時に検討、準備を進め、柔軟性のある品質保証体制を構築しなければならない。品質戦略として全体の方針を明らかにしたいところである。

■「仕組み」領域の課題
 ここでの論点は「全社的な仕組み、基準の共通化、統合化」である。前項で述べたように、生産拠点をその状況により切り替えようとした際に、仕組みが対応できずネックになることも十分に考えられる。

 QMS構築やISO9001などの認証取得でさえ、工場、生産拠点単位になってしまっている中で、仕組みを整合化するための一歩をなかなか踏み出せない企業も多い。全てを統一するのではなく、重要なのは「共通として持つ必要がある部分の特定」である。互換性を確保するための基本原則、あるいは現場適用を考える基本方針といってもよい。

■「実施」領域の課題
 この領域では、各プロセスにおける業務の方式、管理手段に関する改善が論点となる。さまざまな変革が進む中のキーワードとしては「省人化」「リモート化」が挙げられるのではないだろうか。

「省人化」においては、今に始まった話ではないが、より一層その必要性が高まっている。例えば、自動測定・データ保存のシステム導入や、画像処理、AIを活用した検査のデジタル化などの「検査業務の省人化」が考えらえる。検査だけでなく、QC工程表で定めているような製造工程の各管理項目の監視・測定や設備管理における監視・測定なども同様である。

 日進月歩で進むデバイスやソフトウエアの最新技術の情報を収集しつつ、「人」による品質管理の作業が残っている部分に焦点を当て、取得した品質データを一元的に管理するシステム化など改善の推進を図りたい。システム化が進み、データを自動取得すれば、これらを「リモート」で管理できる幅が広がる。例えば、製造ラインをリモート監視(1工場の全工程を1カ所で、または複数工場の全工程を1カ所で)することで、緊急事態時にも人がネックになる作業を回避できる体制を整えることができる。

 クラウドにデータを吸い上げ、各ライン・各拠点のデータを一括管理、また一括保存することにより、これらの分析業務や問題発生時のトレーサビリティの取り方も大きく変わる。スピードも精度も上がり、品質保証の確実性の向上が可能となる。

■「基盤」領域の課題
 「基盤」の中心は人材である。今、その人材への「教育」の形態が変わりつつある。品質の教育では、管理技術の幅、対象者の幅が広く、また深い専門知識が求められる。QCの知識、QMSの理解、品質改善技術、要因解析技術、リスク管理手法、法規制要件など、第一線の担当者から管理者まで、多くの教育を計画的に進めなければならない。

 すでにコロナの影響で計画していた集合研修が中断し、いまだに見通しが立たず、今後の対応に迫られている企業も少なくない。教育の中断は、今すぐにというより、後になってその影響がじわじわ効いてくるので、決して後回しにはできない課題であるが、幸い、従来のさまざまな品質教育を「リモート」で実施する方式に切り替える動きが進んでいる。Webを活用した研修は、コロナ感染が収束した後もスタンダードになっていくだろう。

 このように、品質マネジメント全般にわたって、今までとは違うスタイルがノーマルとなることを見据えて取り組み課題を抽出することが急務である。改革にはある程度の期間を要することを考えるとその推進の着手を急ぎたいところである。

ジャパンブランドを支える品質のプライドを忘れるな

 次なるジャパンブランドとは、「やはり日本の品質は強い」と世界の人々をうならせることではないだろうか。これまでに研究を積み重ねてきた品質の技術、実直に追い求め、リードしてきた品質に対する姿勢と感性は、日本が誇るべきものである。

 品質へのこだわりこそが「Made in JAPAN」であり、ジャパンブランドそのものである。このこだわりを堅持しつつ、これからのものづくり+ことづくりの変革に適用しながら変化、進化を遂げていくことが、強い競争力の源になると確信している。

コンサルタント 安孫子靖生(あびこ やすお)

生産コンサルティング事業本部 品質革新センター センター長
シニア・コンサルタント

品質の領域を中心としたコンサルティング活動を展開、品質保証体制の構築、品質マネジメントシステムの構築、改善、品質管理改善、業務プロセス改善、ISO9001・IATF16949・ISO13485などの導入支援等を専門としている。製造業をはじめ様々な業界での経験を有し、営業、設計開発、製造のプロセスの連携を重視した品質マネジメントを目指し、改革立案、推進指導、各種研修を展開している。