この点、世界最先端のIT先進国として以前ご紹介したエストニア(第1回第2回第3回参照)では、医療においても「e-Health」と呼ばれる先進的な仕組みを構築しています。この仕組みの中核である「健康情報システム」の下、人々の医療データは99%がデジタル化され、電子IDに紐付けられます。このシステムにより、人々がたとえ複数の病院を転々としていても、医療データを時系列的につなげることができます。

 人々は「患者ポータル」を通じて自分の医療データにアクセスできます。また、新しい医師にかかる時には、患者はデータへのアクセスをこの医師に許可し、治療が終わるとアクセスを終了させることになります。このような仕組みは、医療データは基本的には患者のもの、という発想の上に成り立っています。あわせて、医療データはきわめてセンシティビティの高いものであり、高度なセキュリティ技術で守っていくと説明されています。例えば、自分の医療データにこれまで誰がアクセスしたかを各人が全て把握できるように設計されています。

 同時に、緊急時には医師が救急医療に必要な患者のデータ、例えば、血液型やアレルギー、現時点での服薬の有無などのデータにアクセスすることが認められています。また、匿名化された集計データを、行政機関が統計作成や感染症の追跡、政策効果の検証などに用いることも可能です。このように、通常の財の「所有権」とは異なる、データの特性に照らした取り扱いが指向されています。