これからの方向性
このような事例も示す通り、データは石油のような従来型の財とは性質が異なる点が多く、したがって、「排他性」など、これまでの財の性質に基づいている既存の所有権の考え方を当てはめようとしても、なかなかうまくいかないのです。やはり、データという財の特質を踏まえた新しいルールを構築していく必要があります。もちろん、これは必ずしも立法という手段に限られるわけでなく、標準契約の整備といった方法もあり得るでしょう。
重要なことは、「個人の特定が容易であり、生活などへの影響が大きいデータについては個人のコントローラビリティを尊重する」一方で、「匿名性がしっかりと確保され個人が特定できず、かつ社会にとって有益なデータはオープンな利用を進めていく」という、2つのニーズを両立させていくことです。この面で、法的な検討には大きなフロンティアが広がっていると言えますし、同時に、認証やID、匿名性確保などのセキュリティ技術の活用も不可欠です。
◎山岡 浩巳(やまおか・ひろみ)
フューチャー株式会社取締役/フューチャー経済・金融研究所長
1986年東京大学法学部卒。1990年カリフォルニア大学バークレー校法律学大学院卒(LL.M)。米国ニューヨーク州弁護士。
国際通貨基金日本理事代理(2007年)、バーゼル銀行監督委員会委員(2012年)、日本銀行金融市場局長(2013年)、同・決済機構局長(2015年)などを経て現職。この間、国際決済銀行・市場委員会委員、同・決済市場インフラ委員会委員、東京都・国際金融都市東京のあり方懇談会委員、同「Society5.0」社会実装モデルのあり方検討会委員などを歴任。主要著書は「国際金融都市・東京」(小池百合子氏らと共著)、「情報技術革新・データ革命と中央銀行デジタル通貨」(柳川範之氏と共著)、「金融の未来」、「デジタル化する世界と金融」(中曽宏氏らと共著)など。
◎本稿は、「ヒューモニー」ウェブサイトに掲載された記事を転載したものです。