組織・事業・推進の戦略を明確に、DXは中小企業でもできる

 では、企業はDXをどのように推進していけばいいのでしょうか。DX推進の基本戦略とともに、幾つか事例を紹介します。

 DX推進の基本戦略は3つに分けられると考えられます。

 1つ目は組織戦略です。DXを推進する組織は、経営者、業務部門、デジタル/IT部門が三位一体となっていなければなりません。その上で、人材育成や企業文化の変革も進める必要があります。技術ベンダーなど、外部のパートナーの協力も成否を大きく左右します。

 2つ目は事業戦略です。事業においては、既存事業の業績向上や技術負債(レガシー)軽減と並行して、新規事業の創出も重要になります。新規事業を生み出すのは容易ではありませんが、DXは既存事業と新規事業の両利きで推進するべきです。

 3つ目は推進戦略です。進め方はアジャイル(段階的)でないとリスクが高くなります。最も効果が大きそうな重点領域を選んで集中投資し、着実に成果を上げながら横展開していくのが基本です。

 この3つの基本戦略を踏まえた上で、成功事例を見てみましょう。

 1社目はドイツの大手保険会社INSUR社です。同社ではM&AによるIT基盤の乱立とビジネスのサイロ化が課題になっていました。同社ではまず、トップ主導のもと、業務部門とIT部門の共同プロジェクトを立ち上げています。事業戦略策定時には成長戦略と業務効率化戦略の両輪をグループ全体で共有。特に優れていたのは推進戦略です。データ分析やコラボレーションといった自社の重点領域の特定と現状分析が正確で、その後の外部との連携など、次の段階への展開がスムーズに進められました。

 2社目は世界有数の射出成形機メーカーであるENGEL AUSTRIA社です。同社では、既存のITインフラ利用を前提とし、納期30%以上短縮を10週間以内に達成するという困難な目標を立てました。プロセスとしては、重点領域への集中投資の考え方で、BPM(Business Process Management)ツールで業務フローやデータフローを詳細にモデル化するなど、業務プロセスの分析に力を入れています。結果的に納期の45%削減を達成したほか、納期遵守率向上によって顧客からの信頼性もアップしました。

 DXに成功しているのは世界的な大企業だけではありません。国内の中小企業にも成功事例はあります。

 京都にあるアルミ部品試作メーカーのHILLTOP社は、工場を無人化して製造の全てをオフィスでのプログラミングによって進められるソフトウェアの開発に成功しました。生産性向上の面でも、コロナ禍での新しい働き方の面でも、大きなイノベーションです。

 愛知県で自動車部品を製造する旭鉄工は、段階的なデジタル化の推進に成功しています。中小企業がDXを進める際には資金面や人材面が大企業よりも大きな壁になりがちです。同社では、2014年に自社の工場に数万円で自作したセンサーを取り付けるところからスタートして段階的に取り組みを進め、現在では蓄積したノウハウを活かして工場の生産性向上をサポートするコンサルティング会社を立ち上げるまでになっています。

 中小企業であっても創意工夫によってDXを推進するのは可能であるということをご理解ください。