デジタル技術でお金のフローを「見える化」する

 もっとも、このようなお金のフローを確実に実現することは簡単ではありません。

 人々が善意で寄付をしたお金が別の目的に使われていたケースは、歴史上枚挙にいとまがありません。同様に、投資家のお金を決められた対象に振り向け、そのリターンから配当に充てる金額を算出し、誰が権利者であるかを確認し、配当を確実に支払うのは、骨の折れる作業です。

 このため、商法も相当部分がそのための手続きに割かれ、紙技術によってこれらの要請に応える工夫が行われてきました。債券が紙であった時代には、債券に「利札」を付け、これと引き換えに利息が支払われました。株式の場合には、権利確定日に紙の株主名簿に記載されている株主に対し、配当が行われました。その後、これらの取引が電子化され高速化されるに伴い、基本的な枠組みを維持しながら、可能な部分からデジタル化する対応が採られてきました。

 もっとも、課題はなお数多く残されています。

 例えば、株式や社債を通じて、特定の「企業」に投資をすることはできても、特定の「用途」、例えば、ESG(Environment, Social, Governance)やSDGs(Sustainable Development Goals)に沿った使い方になっているかどうかにまで関与することは容易ではありません。実際、近年、対外的に立派そうなESG・SDGsのスローガンを宣伝目的で濫用する“Green Washing”という行為が、世界的に問題視されています。

 また、異なる種類の資産への小口の投資をまとめて、その収益から配当を行うとか、投資のリターンとしてお金以外のもの、例えば利用権などを配当に充てることは、手続きの煩雑さから容易ではありませんでした。