連載「ポストコロナのIT・未来予想図」の第14回。デジタルトランスフォーメーション(DX)を進める上で大きな課題となるのは、デジタル媒体に不慣れな人々をどう取り込んでいくかである。元日銀局長・山岡浩巳氏が解説する。
「デジタル化」や「デジタルトランスフォーメーション(DX)」は、政治的対立は招きにくいテーマです。しかし、必ずしも全ての人の賛同を得られるわけではありません。
一つは、技術革新に伴う構造転換のコストという問題です。
自動車の登場が馬車の需要を減らしたように、新しい技術の登場に伴い、厳しい状況に追い込まれる産業は常に存在します。既存の産業が発達している国ほど、その調整圧力は大変です。このことは、日本における押印廃止を巡る論争が示している通りです。「AIが人間の職を奪うのではないか」といった懸念も、その一つと捉えられます。
ソフトウェアを一瞬で換えられるコンピュータと異なり、人間は知識やノウハウの習得に時間がかかります。したがって、このような懸念が出てくること自体は当然です。しかし、デジタル化がそうしたコストを差し引いても全体として人々に便益をもたらすのであれば、そのことをしっかり説明し、その便益が多くの人々に及ぶように配慮することが、政治や政策の役割になります。
もう一つは、「デジタルデバイド(Digital Divide)」の問題です。
広範なサービスがデジタル媒体経由で提供されるようになると、パソコンやスマートフォンなどのデジタル媒体を使わない人々が情報やサービスを得られないといった不利を被ることが考えられます。これにより、デジタル技術の恩恵を受けられる層と受けられない層との間で、社会の分断が生じかねないと懸念されている訳です。