人口高齢化とデジタル化

 もう一つ、中長期的にきわめて重要な問題は、人口高齢化の問題です。

 人口高齢化は多くの国々に共通の問題ですが、とりわけ日本の高齢化は急速であり、デジタル技術やデータを活用し、医療・福祉・介護などのサービスの効率化を進めていくことは喫緊の課題です。また、マニュアル対応の維持を、財政赤字という次世代の負担によって賄い続けることは困難です。技術革新とグローバル化の中、経済活動の「場所」を選択することは従来に比べ容易になっていますので、将来負担が大きいと捉えられる国から経済活動が逃避する可能性も高まっています。

高齢化率(65歳以上の人口の割合) 出典:内閣府

 また、少子高齢化のもとで、今後労働人口が減少していく日本においては特に、高齢者の方々にもできるだけ長く社会で活躍して頂くことが必要となります。このためにも、高齢者の方々にデジタル媒体に親しんでもらうことは、重要な意味を持ちます。

求められる取り組み

 日本はこれまで、デジタルデバイドに対し、「マニュアルや紙ベースの対応を残す」対応が採られる傾向が強かったわけですが、このことは、デジタル化のスピードを遅くする面があることは否めません。例えば、「マイナンバーカードの保有率は1割台に過ぎないので、マニュアル対応も残さなければ」となるわけですが、そうなるとユーザーの側は、「別にマイナンバーカードを持たなくても手作業で事務を受け付けてくれるので、敢えて持つ必要はない」となりやすいのです。

 しかし、日本においても、先行きの高齢化の進展や深刻な財政事情、高齢者活用のニーズなどを踏まえれば、「デジタルに親しませる」方向での対応を強化していく必要があります。

 また、生まれついての貧富の差などに比べ、デジタルデバイドはまだ、政策努力によって何とかできる余地の大きい問題です。このことは、デジタル化によって新興国・途上国の金融サービスの普及が大きく進んだことをみても明らかです。

 かつて中国のAlipayは、「皆さんはご両親に自転車の乗り方を教えてもらったことを覚えていますか。今度は皆さんがご両親にAlipayの使い方を教えてあげてください」という、有名な全面広告を中国の新聞の一面に掲載し、話題を集めました。すなわち、中国の企業も、この点を強く意識した対応をとっているのです。日本においても、高齢者の方々を含め、いかに優しく、丁寧に、漏れのないようにデジタル化の利益を享受できるよう誘導できるかが、今後の政策の成否を大きく左右するでしょう。

◎山岡 浩巳(やまおか・ひろみ)
フューチャー株式会社取締役/フューチャー経済・金融研究所長
1986年東京大学法学部卒。1990年カリフォルニア大学バークレー校法律学大学院卒(LL.M)。米国ニューヨーク州弁護士。
国際通貨基金日本理事代理(2007年)、バーゼル銀行監督委員会委員(2012年)、日本銀行金融市場局長(2013年)、同・決済機構局長(2015年)などを経て現職。この間、国際決済銀行・市場委員会委員、同・決済市場インフラ委員会委員、東京都・国際金融都市東京のあり方懇談会委員、同「Society5.0」社会実装モデルのあり方検討会委員などを歴任。主要著書は「国際金融都市・東京」(小池百合子氏らと共著)、「情報技術革新・データ革命と中央銀行デジタル通貨」(柳川範之氏と共著)、「金融の未来」、「デジタル化する世界と金融」(中曽宏氏らと共著)など。

◎本稿は、「ヒューモニー」ウェブサイトに掲載された記事を転載したものです。