カメラ見本市「CP+」。新型コロナの影響で2020年は中止になったが、シグマは展示会を積極的に活用してきた(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 過去30年にわたる生産基盤の海外シフトや中韓の勃興、さらにこの10年で加速したデジタル化の浸透によって、ものづくり大国としての日本の地位は揺らいでいる。ポストパンデミックの時代、イノベーションの主軸がデジタルに移っている今の時代に、日本の製造業はどのように戦うのか。その答えを探るべく、日本経済を牽引してきた「ものづくり」の雄の取り組みを追う。

 第5回は前回に引き続き日本有数の光学メーカー、シグマの山木和人社長に話を聞いた。「メイド・イン・ジャパン」にこだわるシグマの経営とはいかに。

・第1回「コロナを奇貨に、働き方、生産性、DXの三兎を追う」(アルプスアルパイン栗山年弘社長)

・第2回「マウスからカーナビまでニッチトップを体現する凄み」(アルプスアルパイン栗山年弘社長)

・第3回「そうは言っても、ものづくりの核は濃密な人間関係」(シグマ山木和人社長)

・第4回「国内生産を可能にする『製品ではなくアート』の執念」(シグマ山木和人社長)

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(文:杉浦美香@みんなの試作広場

プロモはユーチューブで十分と気づく

──新製品の発表をユーチューブで実施されています。

山木和人社長(以下、山木):コロナの前は展示会があって、展示会で発表するのが基本でした。ただ、横浜の「CP+(シーピープラス)」(2020年2月27日~3月1日開催予定だったが中止)、ドイツのケルンで行われる「フォトキナ」(5月27日~30日開催を中止、2022年5月に延期予定)という世界最大の写真映像関係の展示会が中止になりました。

「フォトキナ」には世界中のメディアが取材に来るので、大手メーカーだけでなくシグマを取り上げてくれる機会も増えます。自社イベントで世界中の人を呼ぶのは難しく、メディアが限定されている時代はこういった展示会が最も効果的なパブリシティでした。ところが、中止になったのでやむを得ず ユーチューブでオンライン配信したところ、これで十分ということがわかってしまいました。

「CP+」でシグマの製品を手に取る来場者(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 ロックダウンした2020年2月以降、中国ではマーケティングなどの活動ができなくなりましたが、中国企業はオンラインに切り替え、オンラインのコンテンツを配信しました。すると、お客様も家から出ないため視聴されることが増えました。そこで、我々も手作りベースでもいいから、ユーチューブでやってみようということになりました。

 従来のメディアが不必要になったという意味ではありません。今も自らイベントで商品を発表し、従来メディアの方にレビューしていただいています。メディアミックスの中で重層的に我々ができること、メディアにお願いしなければならないことが見えてきたということだと思います。今後もユーチューブでの製品発表を続けるかについては、ディスカッションした上で総括する必要があります。