また今回、マイナンバーが給付に使えないとなると、市役所の方々などが労働集約的な作業を行い、数カ月かかったものの何とか給付金の配布が“できてしまいました”(海外では、「機械が動かない時に人手で事務をこなすなんて無理無理」という国がほとんどでしょう)。このようなマニュアル事務の水準の高さは日本の特質ではあるのですが、「いざとなれば人海戦術で何とかする」という手作業への依存が、抜本的な対応を遅らせてきた面は否めません。

 7月に決定された政府の「骨太の方針」では、「今般の感染症対応策の実施を通じて、受給申請手続・支給作業の一部で遅れや混乱が生じるなど、特に行政分野でのデジタル化・オンライン化の遅れが明らかになった」と明記されています。行政のデジタル化の遅れを政府が公式文書で認めなければならないほど、コロナ禍はこの問題を浮き彫りにしました。

 そこでまず、マイナンバーカードについて、この分野での海外の先進的取り組みとの比較も交えながら考えてみたいと思います。

住所が書かれていないエストニアの電子IDカード

 昨年(2019年)の秋、私は金融関係者で組織された調査団の一員として、最先端の電子国家として知られるエストニア共和国を訪問しました。

エストニアの旧市街(筆者撮影)

「電子国家」として有名な国ですので、さぞかし未来都市のような外観かと思いきや、首都タリンは中心部が世界遺産にも認定されている、中世風の街並みが美しい古都でした。日本で言えば「京都」や「奈良」のような感じでしょうか。考えてみれば、デジタル技術の根幹は目に見えないので、ハコ物を敢えて未来風にする必要はないわけです。

タリン市内の「カトリーヌの小径」(筆者撮影)