データとテクノロジーを駆使して、SCの新たな文化を創る
甲斐:まだまだ次世代店舗の仕掛けについてはたくさんあると聞いています。IoTやAIといった新たなテクノロジーも重要なキーワードになると思いますが、これらの活用についてはどのように考え、取り組んでいらっしゃいますか。
林:顧客の行動を分析し、利便性を高めるような提案は今後も進化すると思います。これまではスマートフォンのアプリ会員以外の行動は分析できませんでした。今後、IoTのデバイスが活用できるようになれば、分析は質・量ともに飛躍的に変化する可能性があります。
一方でパルコとしては、店舗の空間や接客など、テクノロジーを使ってリアルの体験の価値をより高めていきたいと考えています。例えばスマートグラスのようなものが普及してくると、歩くだけで今まで目に見えていない情報を加えて表示することが可能になります。
ARはSCを回遊するだけで最新の情報を人間の目に入ってくる物理的空間が発信する情報とコンピューターが発信する情報を融合させていくことが可能になるわけですから、体験自体がより高度化され、店舗での体験はこれまでにないものになります。
普及には時間がかかるかもしれませんが、ショッピング体験をより豊かにできるARやVRのような分野にはどんどんチャレンジしていきます。渋谷PARCOでも5階の吹抜け空間でARを活用した3Dアート作品の常設展示などさまざまな取り組みを行っています。
甲斐:お話を伺ってみて、林さんをはじめ、パルコさんにはテクノロジーへのリテラシーが高い方が多くいらっしゃるなと感じたのですが、人材の採用や育成についてはどのように考えていますか。
林:パルコには、新しいものが好きな人や探求心が強い人が多い、ということがベースにあります。私が任されたWebサイトリニューアルのプロジェクトは、社長のアドバイスもあり、社内のデジタルネイティブ世代を中心にチームを結成しました。
当初6人でスタートしたデジタル部門は現在30人ほど。約半数が専門知識を持った中途採用の人材になっています。業務内容もより専門的・先進的になっていることから、社外の知見も取り込みながらやっていこうという段階です。
甲斐:いま思われている今後の課題は何ですか。
林:途中で少し触れましたが、SCとしての価値をさらに高めていくには、来店者に複数のショップを使っていただけるような取り組みをしていかなければならないと思います。こうした買い回りが重要であることは、アプリで蓄積したデータにも表れています。
1つのショップでしか買い物しなかった人と複数のショップで買い物した人を比較すると、前者が翌年にも同じショップを訪れる確率はかなり低い。1つのショップで顧客を囲い込む風土を取っ払って、情報をパルコやショップ間で融通し合うことが顧客満足度の向上につながると考えられます。
今や誰もが使っているスマートフォンや今後普及が期待されるスマートグラスのようなデジタル機器に向けてテクノロジーを活用することで、アナログでは難しいデータ収集や分析が容易になり、顧客サービスの選択肢も飛躍的に増えます。
データの活用方法は注意が必要ではあるものの上手に情報を共有し、顧客満足度を高める買い回りのような具体的なゴールが設定できれば、お客様のショッピング体験がより豊かになり、各ブランドさん間での買い回りも増え、Win-Win-Winの関係が構築できると考えています。
<インタビューを終えて> 昨年後半に話題となった渋谷PARCOの次世代型商業施設のニュースに触れたとき、テクノロジーに明るい方が裏側にいるに違いないと思ったのだが、それが今回取材を受けていただいた林さんだった。
デジタルがフィジカルを包み込むアフターデジタルの世界においてその具体的実現に向けては順番がある。デジタルワールドでしっかりとビジョンを持ったうえで、戦略を構築しながらデータを統合しゴールに向けたロードマップを立て、できるだけ早く実現していくことがまずは重要。
その後に物理世界を包含していくことでお客様体験をより豊かにすることができる。このサイクルは途中で失敗や修正があったとしても早ければ早いほどよい。
今回の取材で2013年に描いたビジョンが試行錯誤を繰り返しながらも5年あまりをかけて実現されていることがわかったが、その過程においてIT部門とCRM部門が統合しながら発展してきていることが重要だと感じた。
またあくまでも店舗を中心にする姿勢はぶれずに貫いているからこそ他商業施設の実現形態とはまた別の形があり、それがお客様をつなぐアイデアに昇華されていることに関心した。渋谷PARCOのテクノロジーが織りなす体験世界は今後の商業施設の基礎となっていくだろう。
しかしながらその体験創造の裏側にあるぶれないビジョンとテクノロジーに関するリテラシー、そしてデータの有効活用こそがそれを支えていることを忘れてはならない。HPのテクノロジーは裏側でも表側でも活躍が可能だ。
今後パルコさんの描くビジョンのもと、HPのテクノロジーが描く表側の世界、そしてお客様を店舗以外でつなぎとめていくダイレクトメディアなどの裏側の世界での協働をしてみたいと強く感じる取材となった。
<株式会社 日本HP 甲斐 博一>