次世代型店舗を創ったパルコのマーケティング哲学

アフターデジタル時代に進化するマーケティング最前線 Vol.1

JBpress/2020.4.13

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甲斐:グループデジタル推進室がデータを一括で収集しているということは、オンライン・オフラインを区別せずに分析しているのでしょうか。

:はい。その点で言うと、「PARCO」は商業施設(以下、SC)ですから、PARCOに来店されるコミュニケーションの部分は店舗を持つ各ブランドが行うのが基本です。

 もちろん、「PARCO ONLINE STORE」というECサイトはありますが、各ブランドのECサイトとは異なり、店舗での販売を補完する役割を担うものとなっています。

 多くのECサイトの場合、一般的に在庫はECサイト用の倉庫にあり、店舗がECサイト側の在庫に関与することはありません。一方、「PARCO ONLINE STORE」では店舗の在庫を店舗のスタッフが発送しています。

 オンライン上で買い物ができるだけでなく、あくまで店舗で試着をしてから購入するものの、オンライン上で取り置きをしておきたい、といったニーズに対応するためです。

次代の店舗の在り方を問う「PARCO CUBE」

甲斐:パルコさんではそうした顧客のニーズに応えるべく、デジタルの活用やオムニチャネル化に注力されていますね。今に至る経緯を教えていただけますか。

:発端は2013年のWebサイトのリニューアルにさかのぼります。リニューアルに先立ってプロジェクトチームがさまざまな検証を行いました。

 その中で一部の店舗でテナントスタッフのブログを検証したところ、当時O2Oの効果で来店促進や売上向上といった好循環を生み出せていると分かったのです。これを受け、全国のPARCOに出店しているショップそれぞれでブログ発信できるようにショップブログを整備し、同時にスマートフォンへの最適化も実施しています。

 リニューアル後のブログの効果は大きく、取り置きや配送のニーズが増えたことから、ブログのページにカートボタンを取りつけることになり、現在のECサイト「PARCO ONLINE STORE」の前身となる「カエルパルコ」が誕生しました。

甲斐:2014年10月には公式アプリ「POCKET PARCO」をローンチされています。当初の計画よりも前倒しされたそうですね。 

2014年10月にリリースしたスマートフォンアプリ「POCKET PARCO」

:当時、ウェブサイトよりもアプリの利用が増えているのは肌感覚で明らかだったので、14年の春にプロジェクトをスタートして開発期間半年ほどで、まずは福岡PARCO新館の開業のタイミングに福岡PARCO限定で、その後15年春に全国へのローンチとなりました。

 アプリのメインコンテンツは、ショップブログとそのブログ記事にカートボタンがついた「カエルパルコ」です。ブログ記事をお気に入り登録(クリップ)することもできます。

 その他、来店時にアプリを立ち上げると「チェックイン」ができ、館内での歩数をカウントする機能「PARCO WALKING COIN」が利用できます。チェックインしたり館内を500歩歩くとコイン(アプリ内でのポイント)が付与されます。

 またアプリに登録した「PARCOカード」(クレジット機能付ハウスカード)での購入や購入後のショップへのサービス評価でもコインが付与されます。なお「PARCO WALKING COIN」には、2020年3月にクリップや購入の履歴に基づいておすすめのショップをレコメンドする機能を実装予定です。

甲斐:歩数をカウントできるとはSCらしい仕組みですね。

:はい、パルコとしては来店の際に多くのショップに立ち寄ってほしいと思っています。オンラインでは目当てのブランドを検索してそこにとどまってしまうことが多いですが、リアル店舗では目的のショップへ来店する前後に当初の目的には入っていなかったブランドの前を通るわけです。

 そこでちょっとした回遊を生み、それがお客様の新しい発見になることも多く、そのために導入した仕組みです。これはリアル店舗が持つ価値の一つだと思っています。