ニューロテクノロジーの活用で「売れる広告」が明確になる

——著書のタイトルは『ニューロテクノロジー~最新脳科学が未来のビジネスを生み出す』となっています。「ニューロテクノロジー」とはどのような技術なのでしょうか。また、脳とビジネスがどのように結びつくのでしょうか。

 人間の脳の働きを、科学的に解明しようとするのが「脳科学」という学問で、その技術的応用分野が「ニューロテクノロジー」です。

 というと難しく感じるかもしれませんが、例えば消費者がある商品を買うという行為は、脳が商品の情報を認識し、その価値を評価し、さまざまな選択肢の中から選択するという脳の情報処理にほかなりません。

 これまでも、消費者の心を知り、ニーズに応えるものを作るといったマーケティングは行われてきました。ただし、その手法と言えば、モニターを集めて、グループインタビューをしたり、アンケートなどで聞いていたりしたわけです。「どっちの商品を買いたいですか」「この広告を見てどう思いますか」と。

 ただ、そこで得られる情報には限りがあります。なにより「言葉」を通じてしか伝えることができません。そもそも、私たちの脳の中で起きている意思決定過程のうち意識や言葉で表出されるのは一体どれほどなのでしょう。読者の中にも消費者の表層的な言葉を信じて痛い目にあった方は多くいると思います。

——ニューロテクノロジーにより、消費者の購買行動のような、抽象的な概念のメカニズムを知ることができると。

 技術の進歩により、太古の昔から受け継いできた「言葉」以外の情報表現様式を人類は獲得しました。脳の情報への直接的なアクセスです。文字の発明やテレビと同じく、これは情報革命です。例えばfMRI(機能的磁気共鳴画像装置)を使うと、秒単位で何万という脳の部位の活動を測定できます。

 これを使えば、あるCMを見て、どのような脳活動になっているかも読み取れるようになります。「このCM好きですか」とアンケートを取らなくても、1秒ごとに数万ボクセル(画素の単位)もの脳活動を捉えることができるのです。さらに、最新の深層学習をはじめとした機械学習(いわゆるAI)を適用することで、動画の特徴から脳活動を予測することもできるようになりました。

 こうした技術を応用し、私たちは大量の脳活動の情報を集め「仮想脳」を作りました。この「仮想脳」は動画を見せれば、特定の脳活動が仮想的におき、そのパターンに応じた行動の予測まで行う視聴者の脳を仮想化したものです。これまで成果を公表している事例だと、ヘルスケア・スキンケア商品などをテレビショッピングで販売するキューサイさんの番組制作にこの仮想脳を活用しました。数千通りの構成案を仮想脳に見せ、最も「仮想脳」が電話を鳴らした素材を実際に出稿したところ、従来の制作手法で同時期に放送した番組より、入電件数が3割近く増加することが確認できました(https://www.nikkei.com/article/DGXMZO37740150U8A111C1000000/)。

 広告のクリエーティブなどは、定量的に判断することが難しいですが、この仮想脳を使えば、ABテストなども、2、3パターンだけでなく数万通りのシミュレーションを短時間で行い、最適解を導くことができるのです。