茨木拓也氏
テレビショッピングの番組制作に脳科学を応用したところ入電件数が3割近く増加——。これはSF映画の話ではない、すでにビジネスの現場で活用されている技術だ。「脳科学を応用する『ニューロテクノロジー』が新たな巨大な市場を生み出す」と語るNTTデータ経営研究所 ニューロイノベーションユニット アソシエイトパートナーの茨木拓也氏に、その可能性や話題の近著について聞いた。
文学部心理学科から医学部の大学院へ
——茨木さんが現在勤務しているNTTデータ経営研究所には「ニューロイノベーションユニット」と呼ばれる、脳科学を応用するコンサルティング部門があるそうですね。脳科学コンサルタントとしての茨木さんのこれまでの経歴もユニークです。
最初は早稲田大学文学部心理学科で学びました。消費心理学に漠然とした関心があったためです。そこで、当時独立行政法人放射線医学総合研究所にいらした高橋英彦先生(現・東京医科歯科大学教授)との共同研究に関わり、人間の経済的な意思決定に関わるMRI(磁気共鳴画像装置)やPET(陽電子放射断層撮影装置)などを使った脳研究に魅了され、すっかり「脳」に目覚めてしまいました。
脳とココロの因果関係を研究したい強い動機から、東京大学大学院医学系研究科の修士課程に進みました。そこでの経験は本当にかけがえのないものでした。そのまま研究者になる道もあったのですが、私としてはやはり脳科学を応用してビジネスを生み出すほうが向いているのではないかと考えて、大学院時代に縁があったこともあり、現在の会社に入社しました。
——脳科学のビジネス応用推進を専門的に行うチームがあるコンサルティングファームも珍しいですね。
そうかもしれません。12人のコンサルタントとスタッフで計25人ほどの陣容です。業務としては、脳科学の研究者と企業との橋渡し、すなわち、「こんな面白い研究があるので投資をしてみませんか」とご紹介したり、逆に企業から「こんなことに困っている。これを脳科学で解決できないか」といった相談を受け、コンサルティングをします。また、産学連携も大事です。ここでは、私たちがアカデミアと企業とのコーディネートも行います。このほか当社では、日本神経科学学会等の支援も受けながら「応用脳科学コンソーシアム」も設立し、脳科学の研究開発、人材育成、人材交流・社会啓発などを支援・推進しています。