テレワークの導入で生まれたビジネスチャンス

 以上のように、2015年の三重拠点設立とともにスタートしたFIXERのテレワークは、課題に直面しつつも前向きな対応で順調に定着。業績も伸び、地域採用者を含め人員数も拡大、今や名古屋、四日市、金沢にも国内拠点を構えるに至った。ここまでの経緯を2人はどう捉えているのだろうか。

島田:当初、技術面や設備・ハードウェアの面では苦労した点もありました。大人数でのビデオ会議の際にネットワークがつながりにくくなったり、音声が飛んで聞き取りづらくなったり、映像の共有の仕方に戸惑ったりとさまざまです。当然、モバイルでの活用も前提にしながら、利用するデバイスの選択にはかなりこだわりました。また、大前提として、システムやデバイスにおけるセキュリティについては十分に対策する必要がありました。しかし、そのような課題は社内ITチームを中心に全社一丸で試行錯誤を重ね、こつこつと改善することで解決していくことができました。また、ビデオ会議システムについては自社プロダクトとして開発中のものを用いることで、製品の改良にもつなげていきました。全社員がユーザーとして実際に利用することでユーザビリティーは飛躍的に上がっていきました。テレワークへのチャレンジも5年が経過し、今ではインフラシステムやハードウェア、デバイスやソフトウェアなど、あらゆる面で理想的な環境を築き上げることができたという自負を持っています。

 近年、テレワークや遠隔会議を支えるデバイスの進化は著しく、音声だけを簡単に拾え、周囲の雑音をカットしたクリアな音質を実現するものなども市場に出始めている。協働作業を遠隔で円滑に行っていくためには、実はとても大切だったりもする。このようにデバイスをはじめとしたツール選びを正しく行うことで、テレワークの導入や推進は大きく前進することになりそうだ。

島田:地域創生に貢献していくためにも、現地との交流の機会を増やしていきました。例えば、2020年度より小学校で必修化となるプログラミング教育の実施に向けて、三重県の教育委員会、小学校と連携し、プログラミング体験授業を一緒に行うという経験を得ることもできました。地元との交流が深まることだけでも企業としては意義のある活動ですが、こうした試みがまた新たなビジネスチャンスにつながる可能性も見えてきています。

田鎖: 三重で実施した教育機関との連携の成果から、そのノウハウを東京で子ども向けのプログラミングスクールとして事業化しようという流れになりました。私事ですが、ちょうど育児休暇から復職した時期で、子どもの未来をつくる活動にとても魅力を感じ、志願してこの事業を担当させてもらうことになりました。これもまたテレワークが生み出した成果の一つです。

FIXERの地域との連携の中から生まれた新規事業「Universal KIDS(ユニバーサルキッズ)」は、子ども向けのプログラミングスクール。JR田町駅直結の教室で、小学生を中心にプログラミングの基礎が学べる講座が用意されている。

 田鎖氏がヘッドマスター(学校長)を務める教育事業では今後、国内47都道府県でのプログラミングキャンプの開催など、拡大に向けた準備が着々と進められている。ここでもロケーションフリーでプログラムを円滑に、かつセキュアに進めていくために、どのようなシステムやデバイス、ツール類が有効なのかということを把握していることのアドバンテージが生きている。しかし、FIXERがテレワーク推進で得たプラスの効果はそればかりではないようだ。

島田:ロケーションフリーな働き方が全社員レベルで定着したことは、当社のグローバル化を後押ししました。日ごろから距離の離れた場所にいる人と同時進行で無理なく働けるのであれば、何も国内だけでなく海外に目を向けてもいいじゃないか、という意識が高まったこともあり、2017年にはサンフランシスコに現地法人を設立しました。さらにUpworkなどの人材プラットフォームを通じて、クラウドソーシング人材を登用していくようにもなりましたし、オフショアでのパートナー企業との連携も膨らんでいます。

 まだ日本では普及が進んでいないものの、欧米ではUpworkをはじめとするクラウドソーシングの活用がエンジニアの間で一般化しつつある。会社に所属するのではなく、Web上のプラットフォームでのマッチングを通じて、プロジェクトごとに技術者として働き、報酬を得ていくスタイルは、特に腕に自信のあるハイクラスのエンジニアなどに受け入れられている。もちろん、この傾向に注目し、欧米の優れたエンジニアの登用を進めたいIT企業は日本でも少なくないが、言語の問題に加え、遠隔地との協働に自信を持てず、ためらっている企業も多い。FIXERはテレワークによって得た自信を背景に、こうしたチャレンジにも乗り出し、すでに多くの海外居住者と共に開発を行っている。

 FIXERの取り組みを見れば、テレワークが「国の要請する時短優先の働き方改革を実現するためだけのもの」でなければ、「余裕のある大企業だけが活用できるもの」でもない、ということが分かるだろう。優れた人材を地域や国の境界線に邪魔されることなく発掘・育成・活用するチャンスをもたらし、社内のコミュニケーションをむしろ進化させ、向上させる。さらには、新たなビジネスチャンスや新規事業開拓のきっかけにすらなり得る。そんないくつもの成果を得ている企業があるのだから、いずれテレワークを導入できない企業は窮地に立たされる。そう言っても過言ではない時代が到来しようとしている。