2019年1月、日本テレワーク協会が主催する「テレワーク推進賞」で、NTTコミュニケーションズ、大同生命、ユニリーバ・ジャパン・ホールディングスといった大企業と並び「優秀賞」を獲得したFIXER社。米国マイクロソフトが認定する最高位のパートナープログラムである「Azure Expert MSP」を獲得するなど、IT業界では知る人ぞ知る存在の同社だが、会社設立は2009年、従業員数は162名(2019年5月末現在)のベンチャー企業だ。FIXERが並み居る大企業とともにテレワークへの取り組みで高く評価されている要因は何なのか? どうやら、単なる「働き方改革の優等生」といった範囲には収まらないさまざまな狙いや効果があるようだ。「テレワークは経営体力に余裕のある大企業だけのものではない」ということを実証する同社の取り組みについて、現場でテレワーク推進に奔走したキーパーソン2人に話を聞いた。
きっかけはトップの一声。ただし導入の主役は現場
FIXERの松岡清一社長は、国内トップクラスのクラウドサービスベンダーとして、かねて全国に足を向け、さまざまなセミナーやカンファレンスで発信を行ってきた。その一環として2014年11月に訪れた三重県主催の産業セミナーで、同県の鈴木英敬知事と出会ったことが、同社のテレワーク推進のきっかけになったという。
島田紗也加氏(以下、島田):その日、松岡は鈴木知事から三重県の実情をいろいろとお聞きしたようです。県内にはITに力を入れている大学や高専(高等専門学校)が複数あり、若い技術人材の育成を進めているものの、その多くが就職のタイミングで県外に流出してしまっていること。そして、もしもFIXERのような先進企業が三重県内に拠点を構えてくれたなら、県の活性化につながるのだという話を熱く語る知事に松岡は強く共感し、拠点設立を約束して帰ってきたのです。
田鎖美穂氏(以下、田鎖): 当時、私は人事と広報を統括しており、島田は同じチームで広報を中心に担当していたメンバーでした。三重県での講演を終えて戻ってきた松岡の話を聞いて、正直かなり驚きました(笑)。会社の新しいチャレンジに参画し、そのことが今日までの会社の歴史を紡いでいることをとてもうれしく思います。
トップが強力なリーダーシップを発揮するというのは、ベンチャーにはありがちな展開ともいえるが、FIXERの現場はその後が普通ではなかった。
島田:確かに大きな方向性は社長の松岡が示しますが、そもそも私たち現場も新しくて前向きなチャレンジが好きなメンバーが集まっている会社ですから、「やらない理由」を上申する暇があったら「やることを前提にして動き出す」のがいつものパターンです(笑)。この時もすぐに三重県への長期出張の必要性を現場から訴えて、田鎖と私で現地入りしました。
現地入りした2人は県・市の担当者と共に拠点開設準備を進め、翌2015年、三重県津市に開発拠点となる「FIXERクラウドセンター」が産声を上げた。松岡社長と鈴木知事が出会ってから1年後のことである。このスピーディーな進出が実現できた背景には、FIXERがクラウドサービスの会社であるという点も寄与しているが、何よりも新しいことに現場が率先して前向きに取り組む社風の影響が大きいことがうかがえる。