ティール組織 3つのポイント
続いて、相互信頼による組織の統制が果たして成り立つのか、ティールを実現するための3つのポイントを見ていこう。
●自主運営(セルフマネジメント)
ティール組織では、ピラミッド構造をチーム制に切り替える。チームにはリーダーが存在せず、誰がどんな決定をしてもよい。新しいチームを作ってもよい。しかし、決定の前には必ず助言を受けなければならない。助言は専門家やCEO、取締役が行う。そしてメンバーの決定については全ての人が意見を言える。
階層組織の上位者の判断でもなく、メンバー全員一致のコンセンサス方式でもない。「助言プロセス」がチームを自主的に運営するために必須のものとなる。
●全体性(ホールネス)
ティールは人間性を保つことを重視する。合理性がすべてではなく、人間が本来持っている情緒的、直感的な部分を尊重する。個人が自分の長所と短所に正直であることが自分らしさを保つことにつながる。自分らしさを互いにさらけ出すと、各個人は欠点を見るのではなく長所を生かすようになる。
そして感情的な部分に目を向けることも大切な要素だ。また、なぜこの事象に怒りを覚えるのか、悲しくなるのかということを突き詰めることで、いままで気づかなかった真実にたどり着くことができる。
●存在目的
企業では「ミッション・ステートメント」を定めることが多いが、それは本当に従業員に感動と指針を与えているだろうか? また、従業員の行動や意思決定に影響を与える力があるだろうか? ティールでは、この2点を踏まえた組織の存在目的を重視する。競争や市場シェア、企業としての成長に重きをおかず、存在目的という一定の方向性を提示することを大切にするのだ。存在目的を追求するためなら、競合他社をも受け入れる。
企業資産は「ヒト」「モノ」「カネ」「データ」と言われてきたが、もはや企業は資産ではなく、存在目的に向かって一定の方向に動くエネルギーであるというのがティールの考え方だ。従業員は自分よりも大きな目標を心から理解すると、個人のエネルギーも高まり、生産性が向上する。個人のエネルギーが高まれば組織のエネルギーも高まる。予算管理、進捗管理といった無駄な作業を排除し、エネルギーを最大化・効率化することで結果的に利益が生まれる。そのために存在目的をもっとも重要な役割に置くのだ。
ラルー氏の『ティール組織』の中で、日本の企業で唯一紹介されている「オズビジョン」は、「全体性」の取り組みに当たる「Thanks Day」と「Good or New」という2つの制度を実施(現在は廃止)。「Thanks Day」は、誰かに感謝するための休暇と2万円を年に1回支給し、どのような1日を過ごしたか社内ブログで紹介する制度。「Good or New」は、従業員それぞれのいいところ(Good)か、日々気になったニュース(News)をグループで話していく取り組みとのこと。
「サイボウズ」も、「自主経営(セルフマネジメント)」に通じる手法を取り入れている企業の一つ。従業員の業務やプロジェクトの中身、進捗を共有し意思決定プロセスや情報の見える化を重視したティール的な働き方を実現している。
まずは部分的に導入して組織の改革を図る
ラルー氏の著書『ティール組織』は、いま最も注目される次世代の組織論として日本でも大ヒットした。熱狂をもって受け止められているが、ティールの組織形態が当たり前のものとなるのは、まだ先のことになるだろう。
ピラミッド構造の組織は長い歴史のなかで改善されてきた。この構造を解体してティール組織、チーム制へ移行するのは、かなりのリスクが伴う。大企業がもしそれをいきなり実施したら大混乱を招くだろう。
ラルー氏が調査した組織も、組織全体がティールであるのは数社のみで、大半の企業はオレンジやグリーンとの混合スタイルだった。このことからもティールが必ずしも最善の組織形態なのではなく、組織が置かれている状況で最善の組織形態は変わることがわかる。
だが、もし組織を変えていこうとする強い思いがあるなら、まずはスモールスタートで始めてみるのもひとつの方法だ。部分的に導入して効果があるなら、自然と展開されていくだろう。
さらに個人の能力が最大化され、組織の存在目的を第一に考えて他の人・チームと連携していくティールのプロセスは、オープンイノベーションにも活用できるはずだ。企業同士の関係においては、階層や統制は存在しない。互いの信頼のもと、自社に都合の悪い情報も含めて共有し、オープンな環境を作ることが求められる。ティールの考え方を取り入れることで、いままででは考えられなかったイノベーションが生まれる可能性が広がっていくだろう。