だが、そこで終わらせなかったのがパナソニックだった。鍵を握ったのはBeeEdgeという新会社の存在だ。国内外で多くの実績を上げているベンチャーキャピタルのスクラムベンチャーズ*1とパナソニック、そしてINCJの共同出資によって、2018年に生まれたアクセラレータである。パナソニックでオープンイノベーションの推進を担い、BeeEdge設立後は同社のパートナーとして活動している徳弘憲一氏は以下のように語る。

「大企業の多くがイノベーションを実現しようとしていますが、組織が大きいため、どうしても動きが重くなりがちです。それならば無理に社内で事業化するのではなく、いったん社外で起業し、これを側面から支援していけばよいではないか、という発想で始動したのがBeeEdgeです。社長の春田*2を筆頭に、新規事業の確立ノウハウを知るエキスパートが、資本と知見の両面で支援していく形を整えたのです」

BeeEdge パートナー 徳弘憲一氏

 そして、BeeEdgeによるアクセラレーションプロジェクト第1弾となったのが、ミツバチプロダクツの事業だ。「大企業とスタートアップの新しい関係性が示した可能性」が高い評価を得て、日本オープンイノベーション大賞の科学技術政策担当大臣賞の受賞に至った。社内ベンチャーを社外に出すだけのカーブアウト*3とは違い、カーブアウト後も支援して育てていくという点に新しさがある。しかも、切り出した事業を推進する人材は、一度母体となる企業を休職して起業に集中させる形を取った。

「休職扱いとはいえ、大企業を離れるわけですから勇気が要りました。でも、中途半端にパナソニックに残っていたら実現しなかったでしょう」と浦氏はその意義について語る。「自由はありつつも厳しい線引き」、それが作用して結果につながった。

 事業の核となるマシンの開発は数カ月で達成した。パナソニック社内では実現できなかったスピードだ。基礎となる技術はパナソニックにあったものだが、それをベースにアジャイルな開発を進めるには、身軽なスタートアップのポジションが有利に働いた。

*1 日米での起業経験がある複数のパートナーが運営するベンチャーキャピタル
*2  春田真氏。スクラムベンチャーズ・パートナー、BeeEdge社長
*3  企業が事業の一部分を切り出し、社外事業の一つとして独立させる手法。経営の効率化を目指して実施されることが多い