AI分野は共創の軸として盛況が続いている

 コンピュータ言語を詳しく知らなくても、その役割や位置づけを知っておくことは、AI企業との共創で力になるだろう。ここではPython言語(以下、Python)を通じて現在のAI分野の全体像を大まかに整理してみよう。

オープンイノベーションの取り組みとして注目を集めるAI分野

 平成から令和へ、時代の区切りが新しくなっても引き続き人工知能(AI:Artificial Intelligence)の分野は盛況が続いている。一方、昨年のガートナージャパンの発表によれば、AIは技術用語として黎明期から「過度な期待」のピーク期を過ぎ、幻滅期に入ったとされる。しかし、これはAIが技術の特別なトレンドではなく、逆に企業が取り組むべき通常の課題になったことを示すともいえるだろう。実際、TRI-AD/Maxarテクノロジーズ/NTTデータによる自動運転車用の地図生成、ファナックとPrefferred Networksによる工作機械分野へのAI応用、ABEJAと日立物流との共同開発によるサービスの提供など、今年になってからも、特に企業間での共創を軸とした話題には事欠かない。AI分野は、オープンイノベーションの取り組みとして、今もなお注目を集めているのだ。

機械学習の「教材」を提供するのは?

 日本のAI分野でこうした共創の話題が多い理由は、第3世代AIの特徴であるディープラーニングが「勝手にものを考えてくれる」ものではなく、与えられた情報を「学習」するシステムだという点にある。機械学習という言葉が注目されるように、学習には「教材」が必要であり、企業がAIに与えるデータの質が事業成功の鍵となるわけだ。AI系ベンダーがいくら高い技術力を持っていても、与えるデータの質で結果は大きく異なる。だからこそデータを持っているそれぞれの分野の企業が、AIベンダーと共創を行なっているのだ。多量のデータを自社で独占するGAFAとは異なり、日本におけるAIは技術とデータの提供者が異なるというケースが多いだろう。

 また、こうした共創のケースは、ベンダーが専用のAIをゼロから開発しているわけではないことも知っておきたい。各ベンダーは多数の事案に対応できるよう、それぞれの技術力で作ったフレームワーク(システムの基本的な機能を集約した基盤)をもっており、それらは無償で提供されているものが多いのだ。

 たとえば、Preferred Networksが提供するChainerは、Pythonから利用することができ、しかもオープンソース(無償公開)で提供されているのでフレームワーク自体に費用はかからない。

 また、米Googleから提供されているTensorFlowもここ数年極めて高い注目を集めている。これは、Googleが実際にデータの分析で使っているAI基盤を、オープンソースで提供できるようにしたものだ。TensorFlowの実用例としては、古代エジプト象形文字の解析、国内では医学論文の評価などが報告されている。

 TensorFlowは無償で提供されており、これも主にPythonで利用することができる。