Pythonの役割を理解することが大切

 オランダのTIOBE Software社が主要な検索サイトの検索統計に基づいて発表した人気プログラミング言語ランキング(2019年6月期)では、Pythonは3位にランクイン。ITのプロフェッショナルではない一般ユーザーサイドでも、Pythonの認知度は高まり始めているが、これはPythonがとても学びやすい言語だからだろう。実際、先のTensorFlowを医学論文の解析に使った事例は、医学分野の専門家がPythonを使って成果を挙げたケースであることを見ても、言語使用者が過去にハードウェアやコンピュータサイエンスの特殊な訓練を積んだ専門家だけでなく、ユーザーレベルにまで敷居が下がってきていることがうかがえる。

 Pythonの習得は容易で、簡単な入門書と10日ほどの期間があれば基本的なところはマスターが可能といわれている。Pythonはプログラミング初心者が最も学ぶべき言語としても、よく推奨されているのだ。

 では、実際にAI活用を検討し、ベンダーとのコラボレーションを企画するプロジェクトオーナーや担当者の立場でPythonを学んでおくのが必須かというと、そうではない。ただし、本稿で説明したようなAIにおける役割の抽象的な理解はとても大切だ。

 AIの純技術的な世界は大変高度で、本格的なAIの開発と運用に必要なスキルは専門家のものだ。しかし、それらはプロフェッショナルに任せるとしても、システムについての概略の知識が有ると無いとでは、プロジェクトの成功確率は確実に変わるはずだ。少なくとも、有力な機械学習ライブラリが無償で提供されていることを知っていて、損をすることはないだろう。

データの所有がイノベーションの鍵に

 ところで、GoogleがなぜTensorFlowといったコア技術を無償で提供しているかといえば、それは彼らが所有しているデータが膨大でしかも質が高いからだ。分析技術をオープンにするのは技術的戦略であったとしても、莫大な量の高品質なデータを持っている限り、同社の優位性はまったく揺らがない。

 反対に日本では自社のデータの優位性に気付かず、AIの導入それ自体が目的になっているケースが多いという。AI開発の決め手は学習技術ではなくデータの質だとすると、これはもったいないことだ。特定分野で強いノウハウを持つ企業の多い日本の現場には、有用なデータが埋蔵されている可能性は極めて高い。そのデータの価値に気付いたとき、混沌としているデータが例えばPythonの技術ひとつで貴重な資源となる可能性を知っていれば、イノベーションのチャンスをものにできる確率も高まってくるだろう。