多くの企業にとってデジタルトランスフォーメーション(DX)が大きな関心事となる中で、米Amazonが展開する「Amazon Web Services(以下、AWS)」のようなクラウドサービスの存在感は日増しに大きくなってきている。
日本情報システムユーザー協会(JUAS)が毎年発表している「企業IT動向調査」の最新版(2018年4月26日発表)を見ても、「企業において最も重視すべきテクノロジー」の第三位に「各種クラウド」が挙げられている。多くの企業にとってクラウドは「生産性の向上(省力化・コスト削減)」を図る手段として、重要なテクノロジーと位置付けられているようだ。
ビジネスのデジタル化を支える基盤として、確固たる地位を確立しつつあるクラウドだが、導入の仕方によってはそれ自体が経営リスクとなってしまうことも。今回は、クラウド全盛時代において経営リスクとなり得る「ベンダーロックイン」の問題点や、その解決策について解説する。さらに、その延長線上にある次期トレンドとして「コンテナ」技術に着目し、今後の潮流を考察していく。
クラウド導入により懸念される経営リスク
2019年3月27日にIDC Japanが発表した「国内パブリッククラウドサービス市場予測」によると、2018年の国内パブリッククラウドサービス(SaaS、PaaS、IaaS)の市場規模は、前年比27.2%増の6688億円に達している。ユーザー企業における従来型ITからクラウドへの移行が堅調に進んでいることを示す結果だ。
加えて、同社は今後もDXや新技術を活用することで「生産性の向上」や「業務の効率化」を図るユーザー企業は増加すると見込んでおり、2018~2023年の年間平均成長率は20.4%で推移し、2023年の市場規模は2018年比2.5倍の1兆6940億円になると予測する。
一方で、このままクラウドサービスが普及していけば、特定のサービス事業者(ベンダー)による囲い込みが進み、他サービスへの乗り換えが困難となる「ベンダーロックイン」による経営リスクが浮き彫りになるのでは、と懸念する向きもある。
あまりに特定のクラウドサービスに依存し過ぎてしまうと、将来的に競合ベンダーからより良い選択肢が提示された場合も、そちらへ乗り換えることは困難となる。また当然、依存先のサービスに不具合が生じた際の被害も甚大なものとなるだろう。
場合によっては「ビジネスを加速させるためにクラウドを導入したのに、高いコストを払って古い(自社の事業とマッチしなくなった)技術を使い続けなくてはならなくなってしまった・・・」などという事態に陥る危険性もあるということだ。
ベンダーロックインによる経営リスクを低減するには、従来のオンプレミス型の自社システムや、自社のみで占有できるプライベートクラウドとパブリックサービスを併用する「ハイブリットクラウド」といった形態や、複数のベンダーが手掛けるサービスを使い分ける「マルチクラウド」といった形態を採ることが考えられる。
あるいは、これと決めたサービスに「敢えて」依存するという選択肢も考えられるだろう。価格面での優遇や手厚いサポートが期待できるだけでなく、ベンダーとの信頼関係育成に努めることで、欲しい情報や技術を他社に先んじて提供してもらえるかもしれない。
いずれの方法を採るにせよ、ユーザー企業がベンダーロックインによる経営リスクを回避するために重要となるのは「主体的に選択する」ことだ。導入するサービスを決める際は、どうしても価格や同業他社での採用実績に目が向いてしまいがちだが、肝心の機能面や自社システムとの親和性、他ベンダーのサービスとの併用が可能かといった点も入念に見定める必要があるだろう。
特に、必要に応じて複数のサービスや既存システムを柔軟に使い分けていくITスキルや判断力は、劇的かつ急激な変化が起こる現代のビジネス環境において、今後の企業経営に強く求められる力になっていくことが予測される。