今後の展開

 内閣府主催の「第1回 日本オープンイノベーション大賞」では、弘前大学やマルマンコンピュータサービス、花王の協業による「健康未来イノベーションプロジェクト」が内閣総理大臣賞を受賞した。このプロジェクトは住民健診から得られた健康ビッグデータをAIで解析し、予防医療や健康増進につなげるというもの。実際に青森県民の平均寿命を延伸することに成功し、約527億円もの医療費抑制をも見込んでいる。今後もこうした取り組みは各地で行なわれていくだろう。

 また2019年6月7日にメドピアが、自社で運営している医師専用コミュニティサイト「MedPeer」の会員医師を対象にアンケートを実施し、「医師の数は不足していると思うか」と質問。その結果、会員医師3000人のうち、45%の医師が「不足している」および「どちらかといえば不足している」と回答している。最多回答は「どちらとも言えない」の34%ではあるものの、「足りている」「どちらかといえば足りている」の合計(22%)の2倍以上の回答者が、医師の数について不足を感じていることが明らかになった。

「医師の数は不足していると思うか?」という質問への回答(画像はメドピアのプレスリリースより引用)

「不足している」「どちらかといえば不足している」と回答した理由として、地域や診療科による「医師の偏在」や医療の細分化と高度化、医師への要求レベルの高まり、働き方改革による必要な医師数の増加が挙げられたという。医師不足の解消という観点からも、HealthTech需要はますます高まっていくと考えられる。

 一方で、先に挙げたマクロミルの調査結果を見ると、記録・計測した自分の体に関するデータをシステムや医療機関等で活用されることに抵抗を覚える人も一定数存在することが判明している。特に40~50代の女性の半数以上が「抵抗感あり」(“やや抵抗がある”と“かなり抵抗がある”の合計)と回答しており、こうした人々の不安を払拭することも、一般に広くHealthTechを普及させていくための課題になりそうだ。

自分の医療・健康データが医療機関等で活用されることへの抵抗感(画像はマクロミルのプレスリリースより引用)

 今回取り上げたIoT機器やウェアラブルデバイス、SleepTechやスマートフォンアプリに加えて、遠隔診療や電子カルテ、AIによる診断支援や介護ロボット等、HealthTech市場では既に多くのイノベーションの芽が育っている。加えて、機器やデバイスの進化によって収集できるデータが増えれば、新たなイノベーションの種も生まれるだろう。

 他のどの先進国よりも早く、超高齢化社会に突入する日本の医療や健康に関する取り組みは、世界中の注目を集めている。HealthTechが日本の、そして世界の医療現場や「健康」事情をどう変えていくのか、今後も目が離せない。