オープンイノベーション事例

 スマートフォンと連携できる体重計や、心拍や睡眠の状態を計測・記録できるウェアラブルデバイスの登場などによって、個人の健康データを利活用する基盤も徐々に整ってきた。異業種からの参入も続くHealhTech市場では、オープンイノベーションに向けた取り組みも活発に行なわれている。最新の協業事例を見ていこう。

●理化学研究所×東レ×AOKI×Xenoma

 2019年1月31日、髪の毛の5分の1ほどの薄さ、かつ柔らかい素材で作られた太陽電池を貼り付けた「発電スーツ」を試作したことを発表。スマートフォンの充電や災害時の非常用電源に使えるほか、着用者の脈拍をモニタリングするなどの電子機能を備えた「スマートアパレル」や「スマートウェア」と呼ばれる衣服型生体センサーの電源としても活用できると期待されている。

 東京大学発のスタートアップとして2015年に創業したXenomaは、近年医療やフィットネス業界で普及し始めているウェアラブルIoT分野で他社をリードする企業。同社の技術力は国内外で高く評価されており、ドイツのエッセン大学に提供する製品は、パーキンソン病や認知症患者の歩き方を捉える実証実験にも活用される予定だ。他にも、乳幼児や高齢者の見守り、工場での安全管理の実証、予防医療等への応用も目指しているという。

 こうした衣類型のセンサーは、長時間にわたって着用者の生体情報を計測するため、安定した電力の供給が必要となる。4社による研究開発が進み、バッテリーの残量を気にする必要のないスマートアパレルが開発されれば、収集できるデータの幅や利用できるシーンも大きく広がりそうだ。

●ニューロスペース×KDDI

 2019年3月13日、共同で睡眠サービスの提供を開始することを発表。ニューロスペースは、HealhTechの中でも関心の高まっている「睡眠」の課題を解決する「SleepTech」事業を展開するスタートアップだ。2社が共同開発した睡眠アプリ「Real Sleep」と、イスラエルのヘルスケアIoT機器ベンチャーであるEarlySenseの高精度睡眠計測デバイスを、KDDIのホームIoTサービス「au HOME / with HOME」と連携し、さらに他事業者が協業しやすい環境を整えることで、人々の健康・生活の質向上に資する睡眠サービスを提供していくという。

 第一弾コラボレーションとして発表されたのが、フランスベッドが発売する高精度睡眠計測デバイス内蔵のスマートマットレスで、これを利用した睡眠のモニタリングと、モニタリング結果から睡眠改善のためのアドバイスを受け取ることができるサービスを展開する。

 前述の通り、「睡眠」はHealhTechの中でも特に注目されている領域だ。ニューロスペースはこれまでにも、ANAホールディングスと共にIoTを活用した時差ぼけ調整システムを開発するなど、大手との協業事業を行なっている。

 また、同社は4月8日にMTG Venturesや東京電力フロンティアパートナーズ、東急不動産ホールディングス等から3億4千万円を調達し、これらの企業との協業を加速していくことを発表。5月7日にはEarlySenseとの業務提携を発表しており、多くの企業の「睡眠」領域への関心の高さが同社の事業拡大につながっているようだ。

ニューロスペースの睡眠解析プラットフォーム(画像はニューロスペースのプレスリリースより引用)

●みずほ情報総研×村田製作所×The Elegant Monkeys

 3社は2019年5月8日、感情分析アルゴリズムを活用したソリューション開発に関する業務協力覚書を締結したことを発表。社員の健康管理や健康経営の取り組みに貢献する「感情・ストレス分析サービス」の提供に向けて協業する。

 具体的には、村田製作所とイスラエルのスタートアップ企業であるThe Elegant Monkeysが、ストレスなどを含む感情的な負荷をウェアラブル機器から収集し、モニタリングするAIソリューション「KENKO Technology」を開発。みずほ情報総研はそれを用いて、労働環境や従業員満足度を改善するためのコンサルティングサービスとして日本市場での事業化を目指す。

 イスラエル経済産業省と駐日イスラエル大使館の支援によって実現した取り組みであり、「中東のシリコンバレー」ともいわれるスタートアップ大国との協業、という側面からも期待のかかるプロジェクトだ。

●メドピアグループ×日本経済新聞社

 2019年5月30日、メドピアの連結子会社であるMediplatと日本経済新聞社が業務提携を行い、日経ID会員(日本経済新聞社および日経BPのオンラインサービス登録者)向けにヘルスケア領域による共同事業を展開することを発表した。約900万人を数える日経ID会員のヘルスケアをサポートする事業の第一弾として、2019年夏頃より、毎日の歩数や日経電子版の閲覧数に応じてポイントが貯まる歩数記録アプリの提供を開始する。

 現役医師が起業・経営するHealhTech企業としても名高いメドピア。同グループは2018年11月にライフログプラットフォーム事業を開始し、グループ全体で医療関連データを集積してプラットフォーム化することで、データ資産を利活用した事業展開の強化を図っている。その一環として、様々な顧客接点を持つパートナー企業との提携も進めている。

 既に開始しているスギ薬局との共同事業では、店舗数1000以上、年間来店者数述べ2憶人を超える同薬局の来店客を主な対象に、セルフケアサービス「スギサポ」を提供。利用者の食事記録や運動記録、医師・薬剤師・管理栄養士への健康・栄養相談記録を中心としたライフログの蓄積を始めている。

「スギサポ」によるO2Oモデルのイメージ(画像はメドピアのプレスリリースより引用)

 このように一部の例を見るだけでも、多くの企業がHealhTech市場に大きな可能性を感じていることがうかがえる。