「事実」を冷静に認識するために

 膨大なデータや経験に基づき、多くの人々が誤解している世界の真実の姿を紹介するだけでなく「なぜ誤解が生じてしまうのか」を分析して解決策を提示した『ファクトフルネス』。

 著者の1人であるハンス・ロスリング氏の巧みな語り口は「魔法の洗濯機」等の有名なTEDカンファレンス動画でも知られている。本書も、人口や教育、貧困や環境といった社会問題や統計の読み解き方について、難解な専門用語を使わずに分かりやすく説明していることが、ヒットにつながったのだろう。

 先入観や思い込みに囚われず、冷静な目で事実を見つめ直す。言葉にするとあっけなく、また誰もがその重要性については認識している。しかし、実際には物事を考える上で最低限知っておくべき、ともいえる簡単な事実すら共有できていない。本書でも触れられているが、世界に関する思い込みや、思考の癖をそのまま放置していると、ビジネスを展開する上でも大きな痛手となる。

 データのオープン化が進む今、最新の事実に基づく正しい世界や物事の見方、本能の抑え方を学ぶことの重要性はますます高まっていくだろう。日本では、新たな学習指導要綱で重視する項目に「理数教育の充実」が掲げられ、文部科学省によって「観察・実験などによる科学的に探究する学習活動や、データを分析して課題を解決するための統計教育を充実」する方針が発表されている。

『ファクトフルネス』でも教育の必要性について言及されており、世界の人々の暮らしを収入別に写真で見ることができる「Dollar Street(ドル・ストリート)」を子どもたちに見せるといった、具体的な提案も盛り込まれている。

「課題先進国」の一員としての教育を受けてきた日本人は、特に国や世界に対して悲観的な見方をしてしまう傾向があるのではないだろうか。まずは12のクイズに挑戦し、自分の中にある「世界についての常識」が正しいかどうか確認してみて欲しい。もしチンパンジーの成績を超えられなかったとしたら、「10の本能」の存在に気が付いていない可能性が高い。

 センセーショナルなニュースや思わず目を奪われてしまう文言に惑わされず、膨大なデータの中から数字や統計の読み解き方を身に付けたい。そんな思いを持つ方は、ぜひ一読をお勧めする。