世界の見方を歪める「10の思い込み」
一般市民から高学歴の専門家まで、多くの人々が世界に関する基本的な「事実」に関するクイズで正答できないのは、知識のアップデート不足だけが問題ではない。本書では、人々の脳が無意識に「ドラマチックすぎる世界の見方」をしてしまうことが原因だと警鐘を鳴らしている。
たとえ、知識のアップデートを怠らず、いつでも最新の情報にアクセスできる環境にある人であっても、ありのままの世界の姿を見ることは難しいのだという。本書によると、進化の過程において人間の脳に組み込まれてきた「瞬時に何かを判断する本能」や「ドラマチックな物語を求める本能」が原因だとしている。世界を正しく認識するには、そういった本能の存在を認め、抑制する術を学ぶ必要があるというのが、ファクトフルネスの肝となる。
本書では、誰もが持っている10の「ドラマチックな本能」について、筆者の経験や人々の「勘違い」事例を用いて、それぞれの概要や抑える術を解説している。以下、10の本能についての要旨をまとめた。
1.分断本能
さまざまな物事や人々は2つのグループに分かれていて、両者の間には決して埋まることのない溝があるはずだ、と思い込んでしまうこと。
目を引く極端な事例や数字、「平均の比較」による見せかけの分断に惑わされずに、「大半の人がどこにいるのか」を探すことで、分断本能を抑えることができる。本書では、「途上国」や「先進国」という分断された見方の代わりに、世界中の人々を所得レベルに応じて4つのグループに分けるという考え方を提案している。
2.ネガティブ本能
人が誰しも持ち得る、物事のポジティブな面よりネガティブな面に注目しやすいという本能。
世界は、「悪い」状態と、「良くなっている」状態を両立していると理解すること。そして、悪いニュースはドラマチックに報じられることが多いため、良いニュースよりも広まりやすいと考えること。ネガティブ本能を抑え、世界の現状を正しく理解するには、以上の2点が必要であるとされる。
3.直線本能
グラフが直線を描くと思い込んでしまう本能。多くの人が「世界の人口は“ひたすら”増え続ける」と勘違いする原因にもなっている。
実際には人口以外のデータにおいても、直線のグラフが当てはまるケースは珍しい。「S字カーブ」「すべり台の形」「コブの形」、もしくは「倍増」する線が当てはまることの方が多い。直線本能を抑えて何らかの現象を正しく理解するには、グラフには直線以外にもさまざまな形があると知り、グラフに示されていない箇所を不用意に憶測しないよう努める必要がある。
4.恐怖本能
人の目は自然と「恐ろしいもの」に吸い寄せられてしまうため、世界は実際の姿よりも恐ろしく見えてしまうという本能。
恐怖に囚われると、事実を見る余裕も無くなってしまう。しかし、確実にリスクがある「危険」なことと違い、「恐怖」はリスクがあるように「見える」だけである。リスクは「危険度×頻度」で決まるため、恐ろしさは無関係であることを知った上で、リスクを正しく計算することが恐怖本能の制御につながる。
5.過大視本能
ある1つの数字だけを見て「なんて大きい(小さい)んだ」と勘違いするような、1つの実例を重視し過ぎてしまう考え方。
「目の前にある確かなもの」に気を取られると本質を見失い、限られた時間や労力を無駄遣いしてしまう可能性がある。世界で起こる事柄の本質を見失わないためには、提示された数字を他の数字と比較したり割合を見たりすることで、過大視本能を抑える必要がある。