限られたエリアで1種類のロボットを稼働させるシンプルな実証実験ではなく、広大な敷地内で複数種類のロボットを同時期に動かして協調させるような複合的な実証実験もやりやすい。例えば、警備ロボットが屋内巡回中に床の汚れを検知すると、別の場所で稼働していた清掃ロボットが現場に向かい掃除するなど、単一ロボットを対象にした従来の実証実証より踏み込んだ検証を実施できる可能性がある。
しかも、立命館大学には5000人超の留学生や障害を持つ学生約100人を含め、約4万2000人の大学生が通っている(いずれの数値も立命館アジア太平洋大学の学生数を含む)。教室、事務室、食堂、寮といったさまざまな施設がある敷地内を多様な人が日常的に行き来するキャンパスは、オフィスビル、飲食店、ホテルが立ち並ぶ社会の縮図といえる。
このような「小さな社会」(仲谷総長)であるキャンパスで実証実験を進めることで、自律走行ロボットに対して不安を覚える人への対応など、技術以外の課題も洗い出せる。これによってキャンパスの外でのロボット展開の道筋を立てやすくなる。三菱地所との協定を受けて立命館ではすでに、「ロボットの研究者に加え、社会学、倫理学、哲学など広い範囲の専門を担当する教員が(ロボットの社会実装に向けて)さまざまな懸念やリスクを踏まえた検討を開始した」(松原洋子副総長)という。
ロボット活用のガイドライン策定までを視野に
実証実験は大きく4つのフェーズに分けて推進する。まず2019年度上半期に、キャンパス管理の効率化や高度化を目的にロボットを試験導入する。
例えば、新入生とのコミュニケーションや学校施設の案内を想定し、多言語で対話可能な自律走行型のコミュニケーションロボットを導入。さらに、広大なキャンパス内で書類を運んだりごみ箱のごみを回収したりする用途で2種類の自律走行型の運搬ロボットを活用する。加えて、キャンパスの警備、自動走行車いすによる敷地内の移動、図書館の清掃などのために、それぞれの目的に特化した複数種類のロボットを用いた実証実験を行う。
2019年度下半期の第2フェーズでは、実証実験の結果に基づいてロボットと人の役割分担などを考慮すると同時に、ロボットを活用したキャンパス管理のコストの最適化を踏まえた効果検証を推し進める。そして2020年度上半期の第3フェーズで、人とロボットが協業する新たなキャンパス管理のモデルを構築し、実用化する。
さらに2020年度下期の第4フェーズでは、キャンパス内にロボットを展開するためのガイドラインを策定するとともに、ロボットを広く社会で活用していく際の指針となり得るガイドラインを提案する計画だ。