CVC主体ではない、日本型オープンイノベーションとは
大企業は従来自社のR&D部門で研究開発していた分野に、ベンチャーの力を求めるようになってきている。今後もこの傾向は強くなっていくだろうと松谷氏は語る。
「特に、もともと日本が高い競争力を持っている、ディープテック分野でオープンイノベーションが加速していくのだと思っています。それというのも、やはり国や大手企業が研究開発型ベンチャーに資金を出すようになったということが大きいです。そしてこれは、CVC主導の欧米型オープンイノベーションとは異なる特徴です」
VCやCVCが好むのは、短期間で投資資金の回収が見込めるベンチャーだ。一方で日本の大企業から注目が集まるディープテック型ベンチャー(研究開発型ベンチャー)は、仕上がりまで時間がかかる上に投資額の負担も大きいため、VCはなかなか投資したがらない分野だろう。ここに対し国や大企業が積極的に投資するようになってきているため、欧米とは異なる流れができてきているというのだ。
一方で、ディープテック系のベンチャー企業が大企業との協業先を見つけるのは至難の業だという。
「ベンチャー企業は、例えば自社で新素材を開発したとしても、それをどこの大手企業のどこの研究所や事業部のセクションに興味を持ってもらえるかわかりません。せっかく良い技術を持っているのに、製品化できない、マーケティングができないベンチャーが多い。プレゼンテーションが得意でない企業も多いですね。ILSではこうした問題を解決するため、データベースを構築し各ベンチャーの情報をしかるべき大手企業のセクションの、しかるべき担当者へ展開しています」
その甲斐あってパワーマッチングでは、大学発の素材メーカーなど、以前は注目を浴びることが少なかったタイプのベンチャーも、次々に協業案件を創出している。どこにどんな技術を持ったベンチャー企業が存在し、それを求める大手企業セクションがどこにあるのか。このデータベースの網羅性が、同プログラムによる高いマッチング率を維持しているといえそうだ。
一方で、注目が集まることで年々マッチング商談会に参加する大手企業側1社あたりの参加者数も増えており、平均して10名、最も多い企業は6部署から50名以上参加があり担当者の負担が増えているという。背景にはオープンイノベーションを社内に根付かせるためにできるだけ多くの部署を巻き込みたいという理由もあるようだ。また、ベンチャー側からILSに対しては「大企業にもっと積極的になって欲しい」という要望が届いているとのこと。
前者に関しては、そもそも大企業の中でオープンイノベーション担当者というのは普段から「やっていることが見えにくい」と思われがちであるという。ILSが昨年3月8日に発表した「イノベーティブ大企業ランキング 2018」には、オープンイノベーション担当者たちの役割を知らしめ、プレゼンスを高める狙いもあったという。実際、同ランキングは各種メディアに大きく取り上げられ、大手企業、ベンチャー企業の双方から反響を呼んだ。
後者に関しては、「ILSベンチャー企業調査2016」での「協業先となる大手企業を絞り込む際に最も重視する項目は何か?」という質問事項に対する回答からもよく分かる。ちなみに同結果の第1位は「自社の技術やビジネスを高く評価してくれているか」、第2位が「協業内容にスケール感があり取り組む意義が高いか」。第3位が「意思決定が早いか」、そして第4位が「担当者の熱意があるか」となっている。松谷氏によれば、大手企業側の担当者がどれだけそのベンチャーについて事前に調査しているかどうかは、実際にILS当日のマッチング成否を分けているとのこと。
オープンイノベーションにおいて、大企業とベンチャーとのスピード感の違いはしばしば課題として挙げられるが、有望なベンチャーに「選んでもらう」には、時として大企業側の意識改革が必要な場合も多いようだ。