ゼロワンブースター 共同代表/取締役 合田ジョージ氏

 世界へ羽ばたこうとする日本のスタートアップ企業のサポートの一方、東京一極集中になりがちなアクセラレーションを、地域でも充実させようと活動するゼロワンブースター。多彩な実績を挙げる同社は、日本のスタートアップエコシステムの今後をどう見ているのか。創設者の一人、合田ジョージ氏に聞いた。

大企業とベンチャー、双方を知るゼロワンブースター

 創始者の一人、合田ジョージ氏のキャリアは完全に理系だ。電気電子工学の修士課程を修了後、東芝に勤務、その中で重電系の研究所やヨーロッパ家電大手とのアライアンス、アジアでのオフショア製造によるデザイン家電の商品企画などを担当する。その後、村田製作所に移り、そこでMBAを取得。その際、ビジネススクールで鈴木規文氏(現ゼロワンブースター代表取締役)と出会う。

 その後、村田製作所を退職し、スマートフォン広告のスタートアップ企業Nobot社に関わり、マーケティングディレクターとして主に海外展開を主導。会社はその後KDDIグループの子会社に売却した。こうした多様な経験が、ゼロワンブースターでの活動に生かされている。

 2012年、起業を志した合田氏は鈴木氏と再会する。シェアオフィスとして立ち上げたゼロワンブースターで、しばらくはそれぞれの目指すところに向けて活動していたが、海外のコーポレートアクセラレーションの状況で意気投合、ゼロワンブースターの活動を本格化させることになった。

「大企業が、自分だけのイノベーションを諦め、スタートアップ企業を募って連携、対等な関係を維持しながら計画の実現に向けて動く。それがコーポレートアクセラレーションなのですが、私と鈴木は『まさに俺たちにぴったりの取り組みじゃないか』と感じたんです」

 一方の鈴木氏の経歴も興味深い。カルチュアコンビニエンスクラブで経営企画室に従事した後、次世代型アフタースクール「キッズベースキャンプ」を創業。この事業を東京急行電鉄へ売却した経歴を持つ。合田氏と同様に、大企業とスタートアップ企業の双方を経験しており、なおかつバイアウトの経験も持っている。意気投合は合点のいくところだ。

 2012〜2013年当時の日本に、欧米流の本格的なアクセラレーションプログラムはほとんど登場していなかったものの、いち早くアーリーアダプターである学研や森永製菓といったイノベーション企業がこれを受け入れ、本格的なコーポレートアクセラレーションプログラムが日本でも始まった。同社はこうした案件に関与して実績を積み重ね、同時に日本向けにプログラムをローカライズしていった。

 こうした経緯で立ち上がったゼロワンブースターだけに、メンバーにも「実体験」の持ち主が多いのだという。その意義を合田氏はこう説明する。

「大企業とベンチャー企業とでは、文化も価値観もスピードも違います。その両者が連携してイノベーションを起こそうというとき、文化の違う者同士が直接やりあってもうまくいきません。だからこそ、両者の間に第三者が必要になる。アクセラレータの存在意義はそこにあります」

「金魚ではなく水を見よ」エコシステムが不足している

 合田氏には持論がある。

「日本で起業家を語る時、決まって登場するのが『熱い思い』という言葉です。例えていうなら、坂本龍馬に代表される幕末の志士的なマインドセットです。『日本を良くする』『世の中に貢献する』という志が、起業家には必ずあるかのように語られますよね。もちろんそういう起業家もいますが、皆が皆そうではない。『なんとなく面白がってやっているうちに、それがビジネスとして通用しそうな流れになっていた』というケースの方が実際には多いと思います。情熱や社会貢献のスピリットをもちろん否定するわけではありませんが、それさえあれば成功する、というわけでもありません。逆に、これこそ世の中を変えるビジネスモデルもしくはテクノロジーだというように、過度に『志』に固執すると、逆に失敗する確率が高まるように感じます」

 信念やビジョンにこだわりすぎると、起業後のピボット(うまくいかない事業の転換点)で判断を誤り、成長の余地を狭めてしまったり、最終的に失敗したりする危険性があるというのだ。

「『Will(意思)はあっても意固地にはならない』くらいのバランス感覚が重要です。そういう柔軟性がなければ、ビジネスを実施した時のユーザーの反応が予想と異なったとき、どうしたらいいか分からなくなってしまうんです」

 数多くのスタートアップ企業の盛衰と向き合ってきた合田氏は、「経営ビジョンは事業を実行していくうちに後付けで形成されて確立していった」というパターンの方が圧倒的に多いという。

 また合田氏は、「自立」を「孤立」と履き違えてはならないとも言う。「こうあらねばならない」と「志」にこだわりすぎると、周りも助けられず「孤立」を招いてしまう可能性もある。しかし本来スタートアップは、起業したての弱い存在だ。できるだけ周囲の人たちの助けを受けながら、上手に立ち上がり、したたかに真の自立をしなければならないとし、「生かされているという感覚が重要」と説く。

「例え『熱い思い』が思い込みで見当外れだったとしても、『アテは外れたが事業がうまくいけばそれでいい』『目指していた方向性と100%合致はしていないが、大局的に見ればこれもアリ』とポジティブに受け止め、ビジョンを修正しながら事業を続行すればいいと思います。どれが正解かという話ではありません。理想と現実の間にギャップが生じるのは当然なんです」

 事業を開始する前から狭い視野で「思い」を固めてしまうことの危うさ。合田氏はそんな例を見てきたからこそ、あえて警鐘を鳴らすのだろう。

 後編では、合田氏が指摘する日本のスタートアップに足りないものについてレポートする。