前回(「大企業とスタートアップの協業のすすめ」)では、欧米に比べて日本では新興企業の成長が限定的であり、また、オープンイノベーション版の自前主義およびスタートアップなどの連携先との協調に難がある旨を述べました。今回はその続編として、それぞれの阻害要因を深耕するほか、その対応策についてもご紹介します。

自前主義から脱却する

 情報通信白書には次のような記載があります。

「我が国の産業の特徴として、国内で激しい市場競争を繰り広げている点がある。(中略)数多くの社が競争力の確保をめざし、網羅性の高い技術を保持し(中略)他社技術の導入については、パーツや部材として完成している技術については製品開発に当たり多種多様なものが利用されているが、技術を持つベンチャー企業や中小企業のM&Aや、大学や他社からの技術そのものの購入など、第三者が開発した技術を自らのものとする動きや、グローバルな共同研究開発への取組が弱い1

 オープンイノベーションを妨げる自前主義 (英語:Not Invented Here Syndrome)とは、「過去の成功体験から自社偏重な思考や状態の理解をして、製品・サービスとそれを支える技術は自社でつくるべきで、自社がつくっていない他社の技術は活用しない」という精神文化を指します。

 これはオープンイノベーションを阻害する要因として考えられています。つまり、自社に取り込める既成技術があるにも関わらず、自社内で必要な技術開発を行うので、製品やサービスの上市スピードが遅くなってしまうのです。日本企業には自前主義が蔓延しているといわれており、経済産業省の調査では、おおよそ半数の企業が「社外の技術と社内の技術を平等に比較することなく、社内の技術を使う」と回答しています2

 このような自前主義から脱却するには、企業の経営層が他社と連携するメリットを理解し、管掌する役員を設けることや、ミドルマネジメントに対してオープンイノベーションを奨励することが有用です3

 また、現場においても、客観的に顧客を観察して得た洞察を元に、製品やサービスを形にしていくデザイン思考のアプローチが有用です。デザイン思考のプロセスを取り入れることで、顧客の定義・調査・観察を通じて、顧客とその行動における不安・不満・不便などの顧客の「不」に焦点をあてることができます。その上で、これらを取り除くあるいは緩和するためのアイデアを出し、アイデアを検証するために必要な最小限の機能を実装、テストして顧客への有用性を確認します。

1 総務省(2013), 第3節ICTによるイノベーションを推進する研究開発 (4)自前主義への拘り, P307
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h25/pdf/n3300000.pdf

2 経済産業省(2016),オープンイノベーションに係る企業の意思決定プロセスと課題認識について、P27
http://www.meti.go.jp/committee/sankoushin/sangyougijutsu/kenkyu_kaihatsu_innovation/pdf/003_04_00.pdf

3 経済産業省(2015),民間企業のイノベーションを巡る現状、P29, P31
http://www.meti.go.jp/committee/sankoushin/sangyougijutsu/kenkyu_kaihatsu_innovation/pdf/001_s01_00.pdf

 オープンイノベーションでデザイン思考を活用するポイントは、顧客の「不」に注目し続けることで、製品・サービス開発が自社偏重にならず、その客観性を保てることです4。それは、顧客が自身の「不」を解決する際に、一社の技術だけにこだわることはなく、時には複数の企業による調査や、技術の組み合わせによって解決を求めることもあるからです。

 企業は、デザイン思考で虚心坦懐に顧客の「不」の解決に取り組むことで、オープンイノベーションを阻害する自前主義から脱却することができるのです。

スタートアップと大企業が相互理解する

 続いて、企業規模が異なるスタートアップと大企業が相互に理解を深め、活動を共にしていく方法について、それぞれの視点で説明します。これは多くの企業において、オープンイノベーションの取り組みの方向性がまとまり、いざスタートアップに声掛けをして協働する際に障壁となっていることです5

 まずは大企業の視点で見ていきましょう。筆者がコンサルティングを行う中で、大企業がオープンイノベーションに取り組む姿勢を見ていると、スタートアップをより理解して、歩み寄ると協業がより円滑に進むと思う時が多々あります。ここで大切なことは、企業規模が異なっていても相手への敬意を示し、双方向で情報を提供することです。

 具体的には、大企業がスタートアップと打ち合わせをする際に、人的な資源に限りがあるスタートアップの時間を使っているという意識を持ち、打ち合わせに臨むことが大切です。例えば、社員数5人のスタートアップと打ち合わせをするとします。そのCEOとCOOの2人と1時間打ち合わせするということは、実にその企業資源の大半を自社のために稼働させることを意味し、1時間の打ち合わせの重みが社員数1,000人の大企業とは異なります。

 そのため、特に遠方からスタートアップを招致する場合には、ビデオ・電話会議での代替ができないかを検討する、もしくは対面の打ち合わせが必要な場合は、期間の猶予を持って設定をする必要があります。また、声掛けをした由縁や、検討の要点および相手への期待を整理し、それらを明確に伝えることも大切です。

 打ち合わせを進めるにあたり、スタートアップ側のミッション、チーム構成、製品・サービス内容、今後の展望や自社への期待も交え、スタートアップへ敬意を示しながら会話することも大切です。裏を返すと、例えば「開口一番にそのスタートアップの製品・サービスの価格の話をする」「いきなり競合他社との違いの説明を求める」、「二言目に機密保持契約が無いと自社の取り組みの詳細を開示できないと言う」といったコミュニケーションは控えたほうが無難です。

 また、そのスタートアップが置かれている状態を理解した上で、相手への期待や、自社が提供することを伝えることも有効です。例えば、協働したいスタートアップが、製品やサービスを構想中/開発中のシード期や、品質を整えながら初期の商用化に向け活動するアーリー期であれば、資金の調達や販路の確立などがスタートアップ側のニーズとなります。

 さらに、複数の顧客を有しながら新たな顧客を獲得していくエキスパンジョン/グロース期や、継続的な企業活動を営む態勢が整っているレイター期であれば、人材採用・維持がニーズとなるでしょう。大企業側は、こうしたニーズに対して何を提供できるのかを考えることが肝要です6

 一方、スタートアップは大企業とどう向き合うべきなのでしょうか。アクセンチュアの調査によると、過半数以上の起業家は大企業での勤務経験がある事が分かっています7。その点からも、協業の候補となり得る大企業の商習慣など体質を理解し、歩み寄る余地は多くあるでしょう。

 例えば、大企業と新しく取引を開始する場合、新規の取引先審査~発注、検収~支払などの決裁が発生する業務は期間を要することを理解し、その取引を円滑に進める心得があると大企業側に伝えると良いでしょう。

 ただし、納期や要求事項に対する実現性については、慎重に回答すべきです。言い換えると、「数日返答がなくても大企業との関係性を消極的に考えない」「検収対象物のイメージを伝える」「前のめりになりすぎず、他の取引や自社の人的リソースの状況を加味して要求に回答する」といったことが大切です。

 また、自社に期待されていることが何なのかを意識することも肝要です。例えば、経営企画部ならば組織内への導入や事業部と連携した新製品・サービスの開発が相手方の期待となりますし、事業部ならば既存製品・サービスの高付加価値化、営業部門ならば双方の取引先へのクロスセル、といった具合に相手方の所属部署に応じた自社への期待値を整理して応対すると良いでしょう。

 本稿では、日本企業におけるオープンイノベーションの阻害要因と、大企業とスタートアップそれぞれの視点で対応策を紹介してきました。これらが日本企業におけるオープンイノベーションの推進とさらなる成長に資することを願っています。

4 デザイン思考とオープンイノベーションの詳細については、『デザイン思考が世界を変える』(Tim Brown著、 早川書房 2014)P193や『デザイン思考と経営戦略』(奥出直人著、エヌティティ出版 2016)P42他を参考のこと

5 経済産業省(2016),オープンイノベーションに係る企業の意思決定プロセスと課題認識について、P29
http://www.meti.go.jp/committee/sankoushin/sangyougijutsu/kenkyu_kaihatsu_innovation/pdf/003_04_00.pdf

6 スタートアップの成長ステージの定義には、国内外の関係機関ごとに複数の定義が存在。本項は一般社団法人ベンチャーエンタープライズセンターベンチャー白書2016等を参考に著者経験にて作成

7 Accenture Ventures, Accenture Research and G20 Young Entrepreneurs Alliance (2015), Harnessing the Power of Entrepreneurs to Open Innovation-SUMMARY