「クックパッドアクセラレータ」の成果報告会「クックパッドアクセラレータ デモデイ」の様子

 クックパッドが、新しい事業価値の創出を目指してベンチャー企業との協業を進めている。その先鋒として取り組んだ活動が、「Cookpad Accelerator(クックパッドアクセラレータ)」プログラム。「料理を通して社会課題の解決に挑むこと」をテーマに掲げ、2018年前半の約5カ月間、国内のベンチャー企業5社とともに、新しいビジネスを立ち上げるべく取り組んだ。いわゆるオープンイノベーションの活動だ。

 クックパッドはベンチャー企業と組むことでどんな価値創出を狙っているのか。オープンイノベーションの活動を主導するクックパッドの住朋亮(すみ・ともあき)事業開発部 Cookpad Venturesグループ長に、ベンチャー企業の支援の要諦を聞いた。

約130社の応募から5社を採択

 クックパッドアクセラレータは、起業家支援を手がける01Booster(ゼロワンブースター)の協力を得て開催した。約130社の応募があり、2018年1月に5社を採択。6月6日には5社との協業の結果を報告する成果報告会「クックパッドアクセラレータ デモデイ」を実施した。

 クックパッドがアクセラレータで目指すのは、外部のベンチャー企業が備えるアイデアやリソースを取り入れて、クックパッドの事業と融合させることで、新しい価値を生み出すことである。

「料理は、人間を人間たらしめている活動である上に、文化の1つとして社会の在り方にも多大な影響を及ぼしている」とクックパッドの住氏は語る。ただ近年は料理にまつわるさまざまな課題が指摘されている。家庭における調理スキルの低下、子供の孤食と食育の必要性などだ。「こうした課題は多々あり、クックパッド1社だけで解決できるものでもない。外部のベンチャー企業と組みながら、世の中における『料理することの価値』を最大化できないかと考えた」(住氏)。

選定時に最も重視したのは起業家の「思い」

 今回、クックパッドが選定したのは以下の5社である。

・アドウェル
(スーパーでの食材の購入履歴から栄養摂取の傾向を推測するアプリ「SIRU+(シルタス)」を開発)
・エーテンラボ
(習慣化を促進するアプリ「みんチャレ」をベースにした活動を展開)
・ビビッドガーデン
(オーガニック農作物の農家直送販売サイト「食べチョク」を運営)
・プランティオ
(プランターにAIとIoTを搭載して、消費者自身が作物の育成に関与する循環型社会を作る活動を展開)
・リンクアンドシェア
(各地域の地元食品メーカーと首都圏などの小売店を結びつける事業活動を展開)

リンクアンドシェアとの取り組みで小売店に設置したクックパッド棚(写真提供:クックパッド)

 クックパッドの住氏は、これら5社を選定する上で最も重視したポイントを「起業家の『思い』」と言い切る。

 例えばリンクアンドシェアの経営トップ・中間秀悟代表取締役については、「これほどに日本各地の食品メーカーを知っている男はいないのではないか、と思わせるほどの人物で、数千もの食品メーカーを自分の足で回って知っている」(住氏)。またプランティオの代表・芹澤孝悦共同創業者・CEOはフードロスの問題や種子の継続性の問題に着目しており、「食にまつわる社会課題の解決というアクセラレーターの目的に合致していた」(住氏)。ビビッドガーデンの秋元里奈CEOは実家が農家であることから、「農産物の生産や流通に対する強い問題意識を持っている」(住氏)と評価する。

「小規模なベンチャー企業、特にスタートアップの場合は、その事業を立ち上げた経営トップの熱意が、事業の様々な面に反映される」(住氏)。

 そうした熱意を受けてクックパッドの住氏が意識しているのは、採択した5社のベンチャー企業との「二人三脚」の活動姿勢だ。

オープンイノベーションの活動を主導するクックパッドの住朋亮(すみ・ともあき)事業開発部Cookpad Venturesグループ長

 住氏は自らの活動方針について「ハンズオン(直接参画)」と「一緒に住む」という2つのキーワードを掲げている。ベンチャー企業に対する支援の方法としては資金などのリソース投入、共同事業化、合併など複数の方法があるが、住氏は「単にリソースを投じたりするだけでは、チームとして一緒にやる意味がない」と語る。

 例えば想定顧客への聞き取り調査や新サービスの設計時には、ベンチャー企業のメンバーだけでなく住氏も参加。クックパッドで実務に携わってきた視点から「ユーザーに刺さるポイント」が盛り込まれるようアドバイスした。「一緒に成功したいなら、リソースを出すだけでは意味がない。こちらも手を動かして汗をかく必要があるし、個人的にはそういうことが結構好きだ」(住氏)。

 一緒に住むというのは、仕事机を同じフロアに置くことを指す。アドウェルとビビッドガーデンの2社はプログラム期間中、クックパッド社内にオフィスを置き、住氏と机を並べて仕事を進めた。「席が近ければ『どうしたいの?』と気軽に声をかけられる。これでベンチャー企業側のメンバーとの意思疎通が良くなり、機動性が高まった」(クックパッドの住氏)。

最後に残るのは「やりたい」という熱意

 ただ、アクセラレーターの採択企業すべてに十分な成果が出たわけではなく、差異がある。6月の成果報告会時点においては、試行の結果、食品メーカーや小売店から活動継続の要望や実証実験の許諾を受けられた企業もあった一方、製品やサービスがコンセプト止まりで終わっている企業もあった。

 住氏自身も「プレッシャーを感じていないわけではない」と吐露する。ただしそれでも、目前の売り上げや利益を急ぐつもりはないという。「あくまでアクセラレータは社会課題の解決が一義であり、また料理をする生活者により良いインパクトを生み出すことが目標だ。売り上げや利益などは、その結果として生み出される。この点については、クックパッドとして一致しているところだ」(住氏)。

 住氏は2015年にクックパッドに中途入社しているが、それ以前は通信サービスの企業に勤務し、2014年に米国シリコンバレーでの駐在を経験している。現地の起業家や企業の新規事業開発者と交流する中で、世界にインパクトを与えるイノベーターに共通しているのは、「課題を絶対に解決したい」という強い思いや、それにまつわる原体験を持っていることに気づいたという。

 事業活動である限り、利益が出なければ継続できない。そのためのリソースは欠かせない。「だが、結局一番最後に残るのは『何が何でもやりたい』という思いで、それがなければ何にもならない」と住氏は強調する。「私もこのアクセラレータは自分から『やりたい』と経営陣に言って手を挙げて取り組んでいる。起業家の『やりたい』という思いに応えながら進めていきたい」(住氏)。

ベンチャーに必要とされる存在になれるか

 一般ユーザーが料理のレシピ情報を投稿し共有するサービスを立ち上げ、かつてはベンチャーの雄としてその名を馳せたクックパッドだが、近年は動画を使用した競合サービスの登場で、競争環境は厳しくなっている。2017年12月期の業績を見ると、当期利益は34億9100万円と増益(前年度は9億円)だったものの、売上高は134億円で減収(前年度は168億円)に終わった。

 ただ、それでも同社には変わらぬ強みが2つある。1つは、「食」という人間の基本的な行動にかかわるデータを大量に持つこと。もう1つは、長年のサイト運営で積み重ねてきたブランド力である。クックパッドの国内における平均月間利用者数は、2018年第一四半期(1月~3月)の時点で5653万人。海外における平均月間利用者数は、3627万人(同時点)である。国内サイトで公開しているレシピ数は289万品におよぶ。

 これらの強みを生かして飛躍できるかどうか。近年オープンイノベーションに着手する大企業が増えているが、このような活動は突破口の1つとなり得る。

 クックパッドの住氏は、アクセラレータの半年間の成果を「あくまでも通過点」と断りを入れる。採択した5社との正式なプログラム期間は終わったが、「今後も新しい価値を生み出せるよう協業の可能性を模索する」(住氏)。平行して次期アクセラレータプログラムの準備も進めていく。

 今後アクセラレータの活動を継続させながら、オープンイノベーションのために必要なリソースは何かを見極めるという。オープンイノベーションにおいては多くの場合、大企業は自社が持ちうるリソースをベンチャー企業に提供し、それをベンチャー企業が活用する。しかし、大企業側が持つリソースはあくまで自社のためのものなので、必ずしもベンチャー企業が伸びるために適切とは限らない。

「必要なリソースを用意できれば、クックパットはプラットフォームとしてベンチャー企業に対して存在感を示せる。またクックパッド自身ももっとイノベーティブな存在になれるはずだ」(住氏)