フランスの起業意識

 さて、『ベンチャー白書』においても、欧州のVC投資動向などの分析はInvest Europeのレポートに依拠するため、欧州各国の国内事情までは拾えていない。今回、在京仏大使館のご厚意によりCOFACE(仏貿易保険会社)の2015(平成27)年2月のレポート「フランスはベンチャーに適した国か?」を入手したので、フランスの国内事情の一端を紹介することとしたい。

 アメリカ人は外国語が不得手で、特に喉の奥を震わすフランス語の“r”の発音は苦手なはずであるが、そのアメリカ人ですら“entrepreneur(アントルプルヌール)”という言葉については一貫してそのまま使っている。それはフランスが“entrepreneur”という言葉の発祥の地であり、それに敬意を表してのことだと聞いたことがある。

 しかしながら、GEM調査(Global Entrepreneurship Monitor)における起業活動率(各国の起業活動の活発さを表す指標:TEA;Total Early-Stage Entrepreneurial Activity)の低さにおいては、下表のとおりフランスは日本と肩を並べる存在となっている。その後も、このようなフランスと日本の位置は程度の差こそあれ、それほど変わりはない。

各国の起業活動率(TEA)。
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 同調査によれば、「失敗に対する怖れがあり、起業を躊躇している」との設問に、フランス人は45%が「はい」と回答しているが、この比率はアメリカ人では35%、イギリス人では40%と低い。日本人では47%と、フランス人以上に失敗に対する怖れが強い。

 COFACEレポートによれば、「2013年以前は失敗は重要視され、会社更生法適用により清算となった起業家は、フランス銀行のブラックリストに掲載された。2013年以降は、失敗の名誉回復努力がなされたものの、長期にわたり、失敗した起業家は新たな活動を開始しようとするときに、銀行取引へのアクセスに困難が生ずることとなった」とある。日本と同様、失敗した場合の再チャレンジが難しい環境があるということのようである。

 また、事業機会の認識、「今後6カ月以内に、自分が住む地域に、起業に有利なチャンスが訪れると思うか?」との設問に、フランス人の23%しか「はい」と回答していないが、この比率はアメリカ人では47%、イギリス人では36%、ドイツ人では31%と高い。ちなみに日本人では7.7%と極端に低い。