ベンチャービルダー――古くは90年代にアメリカのIdealabにまで遡る。2000年代半ば頃から世界中でベンチャービルダーの設立が目立つようになったが、認知度が高まるきっかけとなったのは、昨年ハンガリーのスタートアップスタジオを運営するアッティラ・シゲティ氏が『STARTUP STUDIO 連続してイノベーションを生む「ハリウッド型」プロ集団』を出版したことにある。本記事ではベンチャービルダーとスタートアップスタジオは基本的に同じものとして取り扱うこととする。
ベンチャービルダー(スタートアップスタジオ)とは
ベンチャービルダーとはどのような組織なのか。先の本にはこう書かれている。
同時多発的に複数の企業を立ち上げる組織
ベンチャーとの協業や出資検討時のジレンマとして、ツテもなければ時間もかけられない。数多あるベンチャーの中から選定するだけの目利きまで自社で負担は難しい。ベンチャー1社に対し数多のVCが介入していることもあり、融通も利きづらい部分も否めないと聞く。
加えて、既存のイノベーションラボを例にとると、効果が最適化されないケースも散見される。大手企業とスタートアップの考え方の違い(合議 vs. スピード重視)によるものだが、これによりコミュニケーションに齟齬が生じるといったことがあり得る。他にも知的財産権や技術の考え方、給与体系によってインセンティブが異なる、そもそもの目的が異なるなど身近な部分でミスマッチが生じる可能性がある。
2018年、CB Insightsが101の倒産したスートアップを対象に行った調査によると、倒産理由トップ3は以下のとおり。
1位:市場ニーズがなかったため(42%)
2位:資金ショート(29%)
3位:適切なチームを作ることができなかった(23%)
(参照:CB Insights 「The Top 20 Reasons Startups Fail」)
アジアやアメリカ、ヨーロッパにてグローバルカンパニーと共に数々のスタートアップを創り出してきた実績を持つFAST Venture Builder株式会社(FAST株式会社) CEO・Simon Kim(以下、Simon)は「ベンチャービルダーはこうしたリスクを軽減することができるのです」と語る。
ゼロからベンチャーを複数立ち上げることができ、事業シナジーが合うものを作り出すことも可能。経営陣や人材もベンチャービルダーが抱えるCEOクラスやエンジニア等が属するコミュニティからアサインされる。資金についてもある程度はサポートすため払拭されるといった具合だ。
「弊社が提供するプラットフォームは、投資家がVCにリミテッドパートナー(LP)として出資するのとは違って、ベンチャービルダーの株式を取得いただきます。投資家に対して管理報酬や成功報酬を請求しません。低リスクで効率化が図れて、リソースそれぞれの経験を共有するプラットフォームを使っていることが大きなポイントなのではないでしょうか」
株式がクライアント、スタートアップ、ベンチャービルダーに分配されるため、それぞれが同じ方向のインセンティブを持つことにもなる。
拝命された同時多発のスタートアップも大手企業との協業やさらなる投資の機会も見込める。ベンチャービルダー内のありとあらゆるリソースを効率的に用いることもできる。加えて、創業経験を有する人や、特定のスキルに突出したスペシャリストと共にチームを組むことができるので、ゼロから自身で探す必要もない。コミュニティに属することで、仮に失敗したとしても次に進むハードルは高くない点もポイントといえるだろう。
Amazonのコピーでユニコーン企業を生み出す
いくつかベンチャービルダーの例を紹介したい。ドイツ・ベルリンを拠点とするRocket Internetは、アリババグループが運営するECプラットフォームを提供するスタートアップ・Lazadaを生み出した。LazadaはAmazonの仕組みをコピーし、同社がそれほど普及していない東南アジア市場を狙った。2016年に株式の9.1%を1億3,700万USDで売却、翌2017年には8.9%の株式を2億7,800万USDで売却した。当時の時価総額は2016年で15億USD、2017には31億USDと、創立からわずか5年程度でユニコーン企業に仲間入り。Rocket Internetは当初1,800万USDを投資したが、5年後には約23倍のリターンを得たということになる。
フランス・パリとベルギー・ブリュッセルを拠点とするeFoundersは、SaaSスタートアップに特化したベンチャービルダーだ。2011年より15社のスタートアップを立ち上げ、うち6社が2018年に総額1億2,000万USDの資金調達を行った。これまでの調達総額は1億7,500万USD。5,000万USDの収益を出した。500名を超えるスタッフを抱え、10万もの顧客と取引があるということで、その規模感にも注目だ。
Simonは言う。「どのような企業でもベンチャービルダーはうまくフィットするはず。たとえテクノロジーや技術に関しての経験やバックグラウンドがなかったとしても問題ありません」。