オープンイノベーションを行う目的と注意点
さて、恐らくこの白書の肝となるのが第4章と第5章だ。第4章では国内事例の紹介、第5章でオープンイノベーションの課題や阻害要因、成功要因の分析が行われている。詳しく見ていこう。
はじめに、オープンイノベーションはあくまでも手段だということを再認識しておく必要がある。そのため、あらかじめオープンイノベーションを行う目的や求める効果を明確にしておかなければ評価軸も定まらず、短期的な成果を求められた挙げ句に取り組みが頓挫してしまうことにもなりかねない。
オープンイノベーションを行う目的や期待する効果は企業によって異なるが、日本企業の特徴としてアイデアや発想に関しても外部に期待する場合が多い。そして、主に新規事業立ち上げに際して行われる国内企業のオープンイノベーションの目的は大きく2つに分けられる。一つが「事業における欠けたピースの補完」、もう一つが「社内リソースでは出ないアイデアや発想の補完」だ。
「事業における欠けたピースの補完」を目的にオープンイノベーションを行う場合、具体的には業務提携や買収、協業といった形が取られる。自社のリソースでは不足している物を外部に求めるということは、裏を返せば自社に足りない物が明確になっていることがほとんどだ。つまりこの場合、オープンイノベーションを成功させるにはいかに条件に当てはまるパートナーを見つけ出すかが肝となる。
一方で事業戦略や実現方法が具体化している分、競合他社等への情報漏洩リスクが高いというデメリットも。事業検討内容の秘匿性を高く保つ必要があるため、オープンイノベーションではあるものの水面下で実施される。他にも、コミュニケーションコストの増大やバリューチェーンの複雑化、関係者が増えることによる利益率の低下といったデメリットも挙げられている。
そのため、「事業における欠けたピースの補完」を目的にする場合は安易にオープンイノベーションを試みるよりも、まずは可能な限り自社リソースを有効に使えないか判断する。その上で、自社のリソースだけでは不足する範囲を正確に見極めた上で、「なぜ外部リソースによるオープンイノベーションが必要なのか」を関係者全員で共有しておく必要があるのだ。
他方、「社内リソースでは出ないアイデアや発想の補完」を目的にオープンイノベーションを行う場合、用いられる手法はアイデアソンやハッカソン、ビジネスアイデアコンテストやアクセラレータープログラムといったものが挙げられる。既存事業の延長線上のありきたりなアイデアや発想から脱却し、最先端のベンチャー企業が持つ技術や情報、市場感等を自社に取り込むことを目的とするものだ。
こちらの記事でも紹介したように近年、国内の大企業でも数多くのアクセラレータープログラムが催されるようになっており、このパターンのオープンイノベーションが盛んになってきている。
現在多くの企業が少子高齢化や人口減少といった外部環境変化や、AIやブロックチェーン、自動運転といった急速な技術革新、ビジネスモデルの変化に危機感を覚えている。その対策として既存事業の延長上ではない新規事業の立ち上げを志すものの、社内リソースのみではなかなか革新的なアイデアが生まれづらい。そのため、事業アイデアそのものを外部に求める動きが活発化してきているのだ。