ところがオープンイノベーションに取り組む大企業側は多くの場合、「いかに失敗しないか」を念頭に置いた組織体制、人事評価制度を敷いています。これは既存業務をしっかり回すには向いています。しかし、新規事業を立ち上げ成功させるのには不向きの組織体制であり、人事評価制度です。

 企業側のオープンイノベーション担当者は、その枠組みの中に置かれている限り、オープンイノベーションを成功させる上で必要な失敗経験ができなくなってしまいます。結局、半年なり1年なりといった人事評価の単位期間内で、上層部に説明しやすい結果を出そうという考え方になり、分かりやすい成果を出す取り組みに必死になってしまうというわけです。

――オープンイノベーションの担当者は「いかに失敗しないか」を前提とする体制や制度の中にいると、身動きがとれない、というわけですね。具体的にはどのようにすれば良いのでしょうか。

秋元 大企業側のオープンイノベーション担当者たちには、スタートアップ企業と同様の組織体制・人事評価制度を適用する必要があります。つまり、高速にトライアルを積み重ねられる組織体制を用意し、さらには失敗経験を適正に評価し、次につなげるよう促す枠組みを提供しなければいけません。

 そのためには例えば社内カンパニーや子会社など別の組織を用意して、本社とは異なる人事評価体系を適用できる体制にする方法があります。その上で意志決定を現場に渡すか、現場が経営層に素早く具申できるようにすべきでしょう。

 チャレンジを是とする文化の醸成も欠かせません。私自身もいわゆる大企業にいたのでその反省も踏まえて言いますと、新しいことをやろうとすると、どうしても「できない理由」ばかりが思いつく。そうではなく、できるようにするためのやり方を考えることを奨励することが大切です。

 ただ、組織を独立させるとどうしても既存の事業部との距離が出てしまいます。そうするとコミュニケーションがやりにくくなります。場合によってはオープンイノベーションで既存事業のライバル事業を作ることにもなりますから、「おまえらはおれのビジネスを潰すつもりか」と事業部側の反発を受けて動きにくくなる可能性もあります。

 そこで大事なのは、経営層による関与です。現場同士のぶつかり合いに渡りをつけることができるのは経営層のみです。決して新しい話ではありませんが、経営層によるコミットメントが欠かせません。

(後編に続く)

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「あなたの会社の社長は『私がやると決めた』と言えるか」
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