ある中国人は、営業で会う人ごとに給料を聞くそうである。少しでもいい給料であれば、さっさと転職してしまう。日本の転職は転職後の給料が下がることが多いのに対し、中国人の場合は転職後に給料が上がることが多いとの調査結果もある。仮にこの中国人のようになると、転職のイメージはずいぶん異なることとなる。労働市場の柔軟性を高め、転職は当たり前という社会になれば、優秀な大企業の社員がスピンアウトして起業に挑戦する機会が増えるのではないだろうか。
労働市場で生き残る人間の能力
欧米の人材管理論として「トータル・タレント・マネジメント(Total Talent Management)」という考え方がある。仕事を分解し、それぞれの部分を正社員、派遣社員、パートタイマー、アルバイト、さらにはロボットやAIのうち、誰に任せるのが一番効率的かを判断して、人事管理をするというものである。
すなわち、何でも正社員がこなすという考え方は今や当てはまらず、それぞれの労働形態やロボットやAIの特徴を踏まえ、仕事の配分を決めるということである。その根底には、正社員というメンバーシップがすべて善ではないという考え方がある。多様な労働形態、そしてロボットやAIの存在を認知するのである。
将来、ロボットやAIに現在の人間の職業の半分くらいが取って代わられるとの議論がある。それほど急速にロボットやAIが進化するとも思えないが、備えは怠ってはいけない。ロボットやAIと人間との親和性という意味では、鉄腕アトムやドラえもんの影響もあり、日本人が一番優れていると思う。欧米の映画が常にロボットと人間が闘争するのと、対照的である。
折しも現在日本は人手不足であり、ロボットの導入には適した時代背景がある。先ほどのトータル・タレント・マネジメントにおいて、仕事のどれほどの部分をロボットやAIに任せられるか、冷静に判断する必要がある。おそらく現状では、特に対人業務は人間の方が得意だろう。
そもそも、ロボットやAIを使い倒す教育が必要とされている。囲碁や将棋でも、人間対ロボットという構図ではなく、ロボットやAIを使い倒す、人間対人間の勝負という構図となるのではなかろうか? そういう教育を始めるには、まず教師の教育から始める必要がある。
エストニアから30年遅れる日本の教育
そこで少し教育についても論を進めておきたい。
電子政府で世界の最先端を行くエストニアに、本年(2018年)5月に訪れた。主な目的は“Latitude 59”というベンチャーのイベントに出席することであったが、せっかくの機会なので、無理を言って、教育省を訪問した。