100年に1度と言われる今回の不況を私たちはどのように乗り切ればいいのでしょうか。私は先達の哲学の中にそのヒントがあるのではないかと思います。とりわけ私が長く仕えてきた松下幸之助さんの言葉はその宝庫だろうと思います。

不況は人間が作り出したもの

 松下幸之助さんがよく言っていました。不況は天然現象ではなく人が作り出したものだと。
「今度の不景気がどうやこうやとか言うてますけど、不景気は絶対にあらしまへんのです。それは人間が作っとるわけです」

江口克彦・PHP研究所社長

 人が作ったものだから、必ず解決策があります。それを考えるのが経営者や政治家などリーダーの役割です。幸之助さんはよく言っていました。

 「例えば昨年は忙しくてほおっておいたアフターサービスを徹底的にやろうとか、お店の整備を積極的に図ろうとか、いわゆる甘い経営を排していろいろな方策を考える。それも他力に頼ることなく、自分たちがこれまでに蓄えた力によって一つひとつ着実に実施していく」

 「そうすれば、その歩みはたとえ一歩一歩のゆっくりしたものであっても、ほかのお店が不景気で停滞しているのですから、まあ、相当のスピードということになりましょう。そういうことを考えてみますと、不景気こそ発展の千載一遇の好機であるということにもなりましょう」

 今、世界が大不況の波に洗われていると多くの人が言います。政治家や企業経営者までも「大変だ」と右往左往しています。しかし、大変だと手をこまぬいているだけなら経営者とは言えません。

松下幸之助さんなら徹底した人材教育をしたはず

 では何をすべきなのか。もし幸之助さんが生きていたら、私は徹底的な人材教育をしたのではないかと思います。実際に過去の不景気の時にはこう言っていました。

 「この際に社員の研修をやろうと思うんです。こういうことは多少の不景気と申しますか、そういう時に初めてできるわけです。忙しい時やったらとてもそんなことはできない。猫の手も欲しいわけですからね」

 忙しい時にはついつい後回しにしていたことをじっくりやってみる。人材教育というのは手間隙がかかるわけですから、こういう時にもってこいなんですね。しっかり教育して次の時代の新しい価値を生み出してもらう。

 ところがどうでしょう。最近の企業を見ていると、人を育てようなどと言っている企業はほとんど見かけません。それどころか、せっかくの人材をばっさり切り捨てています。