去る5月9日、モスクワの赤の広場で対独戦勝記念の軍事パレードが行われた。ドミトリー・メドベージェフ大統領、ウラジーミル・プーチン首相、アナトーリー・セルジュコフ国防相などの政府首脳部が出席し、クレムリン周辺の公共施設や交通機関を封鎖して行うという、大規模なものである。

毎年変わる軍事パレードの中身

 軍楽隊の演奏をバックに将兵や戦闘車両が整然と行進する様は確かに美しく、また迫力がある。筆者は昨年(2010年度)のパレードと総合リハーサルを沿道で見学したが、高級ホテルや議会関係施設が立ち並ぶトヴェルスカヤ通りを迷彩色の装甲車両が埋め尽くす光景は、異様でもあり、同時に忘れ難い強烈な印象であった。

ロシアの軍事パレード(2010年)

 ところで、パレードの内容は毎年同じというわけではない。ロシア内外の政治・軍事的環境に影響を受けて、毎年、微妙な変化が見られる。

 まずは、この軍事パレードがどのような変遷をたどってきたかを簡単に紹介しておこう。

 赤の広場を戦闘車両が行進するスタイルのパレードは、実は2008年から始まったものだ。

 ソ連時代には戦勝記念日と革命記念日にこのような大規模な軍事パレードを行っていたが、ゴルバチョフ政権下の1990年に廃止され、1996年に復活してからも将兵の行進だけに縮小されていた。それが2008年から復活したのである。

 復活後のパレードは毎回規模を拡大し、特に昨年(2010年)は対独戦勝65周年に当たるということもあって極めて大規模なものとなった。

盛り上がりに欠けた今年の軍事パレード

 戦闘車両159両、航空機127機という過去最多の装備品がパレードを行ったばかりか、旧ソ連諸国の9カ国(アゼルバイジャン、アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギスタン、モルドヴァ、タジキスタン、トルクメニスタン、ウクライナ)や第2次大戦当時の連合国(米・英・仏・ポーランド)までが参加し、さらには貴賓席にドイツのアンゲラ・メルケル首相を含む各国首脳を招待するという非常に豪華なものであった。

 ところが、今年の軍事パレードはいま一つ盛り上がりに欠けていた。車両の参加数は過去最少、航空機はヘリコプター10機のみで戦闘機も爆撃機も飛行せず、外国からの首脳の参加もなしという、復活以来最も寂しい内容であった。

 そもそも昨年のパレード直後には、「赤の広場の敷石を貼り替えなければならないので、来年はパレードは行わない」という大統領府幹部の発言が伝えられたこともあり、パレードが開催されるかどうかもはっきりしていなかった。

 似たような話は、2008年に車両展示が復活する際にもあった。戦闘車両は都心の北にあるホディンカ練兵場からトヴェルスカヤ通りを通ってクレムリンへと移動してくるため、アスファルトが傷む。