BRICs諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国)といえば、つい最近までグローバル経済時代の寵児だった。そのBRICs経済を昨年来の国際金融危機が直撃しつつある。

中国、輸出が2か月連続マイナス 世界的な経済危機で

中国の輸出は急減している〔AFPBB News

 比較的軽傷と言われる中国でも、昨年夏以降、華南地方を中心とする輸出企業の大量倒産、株・不動産バブル崩壊があった。成長率は6.8%まで下落し、出稼ぎ農民の失業は公式発表でも2000万人。

 失業率15%と言われる大学新卒者の就職難、昨年後半だけでも2400億ドルの国外資金流出、100年に1度の大旱魃発生など、悪い材料を数え上げればキリがない。

 今も世界のマスコミでは中国経済悲観論が主流だ。

中国経済は本当に失速してしまったのか

 思い返してほしい。過去10年間、中国が2桁の高度成長を続けていた頃、一部の嫌中派識者は「中国経済はいずれ崩壊する」と唱えた。だが、実際には「崩壊」どころか、中国経済は更なる成長を遂げる。

 20年前には天安門事件が起きた。当時クリントン政権関係者は「中国をグローバル経済に取り込めば民主化は進む」と楽観視していた。おっとどっこい、「共産党独裁」は生き残り、チベット・ウイグルでの弾圧は今も続いている。

 30年前に中国では改革開放が始まった。80年代、日本は中国との歴史的和解を目指して対中投資とODAを拡大する。それにもかかわらず、江沢民総書記は中国全土に抗日記念館を建設し続けた。

 このように、過去20年間、中国の政治・経済に関する見通しはことごとく外れてきた。多くの専門家、エコノミストが見通しを誤ってきた理由は一体何だろうか。

中国経済に見られる特異性

 話をもう一度経済に戻そう。

 BRICsといっても実態は決して一様ではない。中国経済を詳しく見ていくと、他のBRICs諸国とは一味もふた味も違うところがある。例えば、実質GDP成長率予測だ。2009年には年率8%を大きく割り込むだろうが、ゼロ成長に近い落ち込みが予測されるロシアやブラジルよりは明らかに力強く見える。

中国で27兆円規模の鉄道開発計画、景気刺激とサービス向上目指す

中国で計画されている高速鉄道網の整備計画。総額27兆円規模の投資額になると言われている〔AFPBB News

 昨年一時懸念されたインフレも収束に向かっており、11月には総額4兆元(約55兆円)もの景気刺激策を打ち上げた。今年に入り、製造業PMI*1が49.0まで回復し、M2*2も増加しつつある。株価は一時の低迷を脱し、人民元も安定してきた。

 2月に旧正月開けの上海を訪れる機会があった。商売の最前線では「カネ」と「モノ」が再び動き始めていると感じた。まるで経済的合理性など無視するかのように、財政、金融、雇用などあらゆる分野の政策が総動員され、一定の成果を挙げているようだ。今回の悲観的見通しが再び外れる可能性は高いだろう。

 それでは、中国経済はほかのBRICs諸国やG7と一体どこが違うのか。答えは一様ではない。エコノミストは国家統計局が作る「公式データ」を基に様々な推論を行う。政治学者は共産党内の権力闘争に注目し、独裁システムそのものが原因だと主張する。

*1=米国のISM(供給管理協会)が発表している景気指標の1つ。PMIとはPurchase Managers Index の略で、日本語では製造業の購買担当者景気指数と呼ばれる。50が景気拡大と後退の分岐点とされる。数値が大きいほど景気が良いことを示す

*2=マネーサプライ(通貨供給量)の指標の1つ。M1が現金通貨に普通預金、当座預金の加えたもので、M2は通常、これに定期預金を加えたものを指す