(朝比奈 一郎:青山社中筆頭代表・CEO)
岸田政権が発足してまもなく一年半になろうとしています。
昨年後半には閣僚の辞任ドミノがあって政権の危機が脳裏をかすめた時期もあり、つい先日も荒井勝喜首相秘書官の更迭を余儀なくされましたが、岸田文雄総理自身の、まるで上司に忠実なサラリーマンのごとく目の前のことを淡々とこなす仕事ぶりによって、その危機を乗り越えたようです。日本人はもしかしたら、「これをやりたいんだ」という強い意欲を漲らせるリーダーより、着々と無難に目の前の課題を捌いていく岸田総理のようなタイプのほうが好きなのかもしれません。
岸田総理だから可能だった?安保3文書の決定
職務に忠実なサラリーマンとして見れば、最近の岸田総理の仕事ぶりはなかなかのものです。114兆円という今までにない巨額予算の政府原案を決定したこと、資産所得倍増を目指し、NISAの拡充を盛り込んだ税制大綱をまとめたこと、GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議をスタートさせ、2月に基本方針をまとめたこと、「新しい資本主義実現会議」においてスタートアップ育成5か年計画、資産所得倍増計画などをまとめたこと、子ども家庭庁を4月に発足させるめどをつけたこと――。
それらの中でも特筆すべきなのは、安保3文書の閣議決定ではないでしょうか。まずその名称からして分かりやすくなりました。従来、防衛大綱と呼ばれていたものを「国家防衛戦略」に、中期防(中期防衛力整備計画)と呼ばれていたものを「防衛力整備計画」としました。これらに加え最上位に位置する「国家安全保障戦略」とで安保3文書と呼ばれています。
経済安保も含め外交・防衛の基本方針である「国家安全保障戦略」を定め、それに基づき、「国家防衛戦略」を練り、さらにそれに従って「防衛力整備計画」があるというすっきりして分かりやすい形になりました。
また中身のほうも、中国の存在をはっきりと脅威として受け止めています。意図を忖度するとかではなく、「中国がこんなに軍備を増強しているんだから我が国にとっては脅威です」という具合にファクトやデータに基づいて論じつつ、専守防衛ではもう国土と国民を守れない現実を受け入れ、反撃能力・敵基地攻撃能力にも言及しています。また相手の攻撃に対抗する抗堪性(こうたんせい)や継戦能力も考慮して、5年後、10年後を意識して防衛力を整備しようというものになっています。