菅直人首相は5月6日、記者会見を行い、中部電力の浜岡原子力発電所の停止を求める異例の「要請」を行った。中部電力は9日に臨時の取締役会を開いて、この要請を受諾することを決めた。

 中電によれば、原発を止めることによって火力発電所で使う化石燃料が増え、年間2000億円以上の損失が発生する。今回の停止要請は、その期限を津波対策の防潮堤が完成するまでとしており、その完成には2年以上かかると見られている。

 つまり、少なくとも4000億円の損失が発生するわけだ。中電の2011年度の営業利益の見通しは1300億円だから、3年分以上の利益が今回の「要請」で吹っ飛ぶことになる。

水野社長が「国の要請」であることを強調した理由

 これについて中電の水野明久社長は、記者会見で「内閣総理大臣からの要請は極めて重い」と、今回の決定が国によるものであることを強調した。

 彼が海江田万里経産相と交わした「確認事項」にはこう書かれている。

 <全号機運転停止した場合は多大な追加費用負担が発生する。当社は最大限の経営効率化に努めるが、今回の要請は、お客様、株主等に対して過度な負担を強いることを前提としたものではないと受け止めており、その回避・軽減に向け国にも十分に支援していただくよう要請したい。>

 海江田万里経産相は、これに対して「必要な金融支援」を約束しているが、金融支援だけで済むとは思えない。今回の運転停止によって、中電の株価は1日で1割以上も下がった。この損害について株主代表訴訟が起こされる可能性もある。

 ただ株主訴訟が起こされた場合も、その損害のもとになった行為に法的根拠があれば、経営者は賠償責任をまぬがれる。

 水野社長が「首相からの要請は極めて重い」と、国の要請によるものであることを強調したのは、訴訟が起こされた場合のことを考えているからだろう。

史上最大の行政指導

 しかし首相の要請は、国によるものではない。それは法的な強制力を伴う命令ではなく、閣議決定さえ行われていない菅直人氏個人の「お願い」にすぎないのだ。この点は首相も、記者会見で次のように明言している。