密輸の現場はスリリングだった。漆黒の中の闇取引。主権とか法律ではなかった。コミュニケーションとネットワーキングが奏でる旋律、それが中朝国境だ。
北京大学で国際関係を6年間学んだ。本連載の第1回(プロローグ)でも紹介したように、北朝鮮からの留学生とも知り合い、人脈もできた。
しかし、国境で日常的に起こっていること、それこそが真の国際関係なんだという真実をまざまざと思い知らされている。国際関係を追究するための原点。国境を行く旅はいいものだ。歩いてよかった。
時計の針は深夜を指している。密輸の現場に案内してくれたキムさんと男に簡単に挨拶をし、何事もなかったかのように撤退しようと考えたが、辺りは真っ暗で何も見えない。深夜の移動はさすがに厳しいと判断し、結局キムさんの自宅に泊めてもらうことにした。
寝心地の良かったキムさんの家
朝鮮族の人たちが住む家は、床が暖かい。常に床暖房が稼働しているような感じだ。男も含め、3人でごろ寝した。枕や掛け布団はなかったが、逆に何とも言えない心地よさを感じた。
いつでもどこでも寝られる体質の筆者は、眠りにつくのに1分とかからない。この日も同じだった。
4時間ほど経っただろうか。いつになくよく寝られた。夢は見なかった。起き上がっていくと、2人はすでに起きていた。朝鮮語で雑談をしている。
「おはようございます。ぐっすり眠れました。ありがとうございました」
キムさんがクールに微笑んでくれた。「おはよう」
煙草をふかしている男は、朝からなぜかハイテンション。密輸の興奮が収まらないのだろうか。