(池田 信夫:経済学者、アゴラ研究所代表取締役所長)

 アメリカ連邦取引委員会(FTC)は12月9日、フェイスブックを反トラスト法違反の疑いで提訴した。インスタグラムやワッツアップなど競合企業を買収し、競争を阻害したとして、両社の売却を要求している。

 10月には司法省がグーグルを反トラスト法違反で提訴しており、巨大IT企業に対する規制当局の圧力が強まっている。かつてアメリカの誇りだったハイテク企業は、今や格差を生み出す独占の象徴として指弾されるようになった。この背景には、資本主義の構造的な変化がある。

失われたアナーキストの楽園

 1990年代にインターネットが世界に急速に普及したころ、それは国家や資本主義を超えるネットワークとして期待された。1996年に詩人ジョン・ペリー・バーロウは、「サイバースペース独立宣言」で「工業世界の政府」に対して次のように宣言した。

われわれは人種、経済力、軍事力、または出生地による偏見なしにすべての人が入ることができる世界を創造する。(中略)財産、表現、アイデンティティ、運動、文脈に関する法的概念は、われわれには適用されない。それらはすべて物質にもとづいており、ここでは問題はないからだ。

 インターネットは物質の世界から独立した空間だから、政府や大企業の支配を受けないで人々が自由に表現でき、直接民主主義が実現して国家も必要なくなる、とバーロウは期待した。初期のインターネットはアナーキストの楽園だった。

 それから25年たって実現したのは、彼が期待したのとは逆の世界である。誰でもツイッターで文章を書けるようになったが、インターネットのアクセスの3分の1はトップ10のサイトが独占する。ユーザーが見るのはGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)などのプラットフォームに限られ、その支配力はかつてのIBMを上回る。

 情報は無料になったが、その情報に対する関心を集めるコストは高い。プラットフォームを構築するには巨額のインフラ投資が必要だ。インターネットで言論は民主化されたが、そこから大きな収益を得られるのはプラットフォーム企業だけだ。

 国境のないインターネットは、アナーキストの夢とは逆に、グローバル企業が国境を超えて人々を支配する空間になった。そして今、国家がその支配権をGAFAから奪い返そうとしている。