過去10年間、ずっと気になっていた素朴な疑問がある。大使館勤務をしていた2000年代初めから、北京の繁華街ではベンツなど欧州高級車のショールームが続々とオープンしていった。いったい誰がこんな高い外車を買えるのだろう。これが今回のテーマである。

売れ続けるベンツ

交通渋滞はビジネスチャンス、中国で登場した新サービス

交通渋滞する北京。よく見ると黒塗りの車のほとんどがベンツなど高級外車だ〔AFPBB News

 メルセデス・ベンツを製造販売する独ダイムラー社の最新記者発表によれば、本2011年1~3月の販売台数は全世界で約28万台だったそうだ。そのうち中国での販売台数が4万2990台、日本は7317台である。

 大震災の影響なのか、日本では今年3月の売り上げが2010年に比べ22.5%も落ち込んでいるのに対し、中国は何と前年同月比80.4%の伸びを記録している。メルセデス・ベンツにとって中国はアジア地域で最高の「お得意様」なのだ。

 中国でメルセデス・ベンツ「S350」は最低93万元(約1200万円)、最上級車種なら362万元(約4700万円)もする。

 中国にも大富豪が増えつつあり、ベンツを買えるのは今やITや株で大儲けした新興成金だけではなかろう。それにしても、何百万元もする高級外車がなぜそんなに売れるのか。

リュックサックに巨額のキャッシュ

 昨年、北京で面白い話を聞いた。中国では乗用車が飛ぶように売れており、週末になると、ごく普通に見える中国人が巨額の人民元札束の詰まったリュックサックを背負い、高級外車を買いにショールームにやって来るという。もちろん、すべてキャッシュ払いだそうだ。

 よく考えてみれば、二重の意味で不思議な話である。国家統計局によれば、2008年の中国の1人当たり可処分所得は最富裕層でも4万3614元(約57万円)に過ぎない。ベンツはともかく、いったいどうやったら1台最低数十万元はする乗用車を買えるのだろうか。

 しかも、支払いは現金だ。なぜ銀行振り込み、小切手、キャッシュカードを使わないのだろう。日本円で数百万円もの現金はすべて彼らが真面目にコツコツ貯めた「タンス預金」なのだろうか。どう考えても、そうは思えない。

灰色収入の研究

 中国の金持ちのカネはどこから来るのか。これが2000年来、筆者の疑問だった。彼らがまともに税金を払っているとは思えない。相当程度の収入が捕捉すらされていないのではないか。誰もがそう感じているものの、その実態はよく分かっていなかった。

 この機微な命題に取り組んだのが昨年夏クレディ・スイス銀行が発表した調査研究だ。「中国における灰色収入の分析」と題された56頁の報告書は「中国社会経済体制改革研究会」のWang XiaoLu(王小魯?)教授が書いたものだそうだ。