モリサワが開発したUDデジタル教科書体。何がすごい?

大反響を呼んだツイート、示したフォントの力

「今日、訪問した支援者の方から『UDデジタル教科書体』に変えたら、今まで文字を読めなかった子が『これなら読める!オレはバカじゃなかったんだ……』と言って、皆で泣いてしまったという話を聞いた。その話を聞いて、書体が手助け出来たことの嬉しさよりも、その子が今まで背負ってきた辛さ、…(続」

 2019年4月3日、ツイッターに投稿されたこのつぶやきには、21000件を超えるリツイート、38000件の「いいね」がついた。その内容は、普段あまり注目されることのないフォントについて。

 ツイートは次のように続く。 

「自分をバカだと思ってしまうほどの切ない体験をどれだけしてきたのかと、今まで放置されてきた書体環境に胸が締め付けられ、タイプデザイナーとして申し訳ない気持ちでいっぱいになった。きっと書体を変えただけでなく、支援者の方が子どもに寄り添い、その子が読みやすい組版を提供したのだろう。(続」
「支援者の方が沢山の書体の中から『UDデジタル教科書体』を見つけ、うまく役立ててくれていたことに頭が下がる。『障害は人がもっているのではなく、社会にある』ということを実感した話だった。その子が、これをきっかけにこれから一つ一つ自信を取り戻してくれたら嬉しいな」

 発信者は日本のフォント業界の雄であるモリサワの高田裕美さん。

「デザインに合っている」「目立つ」「かっこいい」などの理由で選ばれがちなフォント。しかし、実はフォントによって読めなかったり、読みにくかったりする人もいる。例えば、文字の読み書きに障害のあるディスレクシア、ロービジョンといった人たちだ。

 情報があふれる時代において、多くの人の読みやすさと向き合ってきた「フォント」についてご紹介する。

そもそもフォントとは何か?

 私たちが普段目にしている雑誌や書籍、ウェブサイト、はたまた駅名の表示や商品パッケージに使われている文字。実はその文字の形にはある一定のルール(特徴や様式)があり、そのデジタル化した書体のことを「フォント」と呼ぶ。

 その種類は大きく3つ。

 1つは、明朝体。仮名が筆で書いた楷書の形状であることが特徴的なこのフォントは、縦線が太く、横線が細い。また縦横線の太さの比率が異なり、図1にあるような「うろこ」「セリフ」など飾りの様なものがある。

 パソコンでWordファイルを開いたときに「ホーム」タブの左上のボックスでフォントを選ぶことができるが、「MS明朝」などがポピュラーな明朝体のフォントである。

 2つ目と3つ目が、角ゴシック、丸ゴシック。名前のとおり、線の切り口が角張った処理をされているのが角ゴシックで、丸くなっているのが丸ゴシックだ。ゴシックは、基本的には明朝にあるような「うろこ」「セリフ」などの飾りがなく、シンプルな形状をしている。また、縦横の太さが同じように見えるように作られているという特徴を持っている(実際には、目の錯覚〈錯視〉に対応するため、縦横の太さは全く同じわけではない)

 日々、文字と向き合っている出版社の編集者であっても、明朝とゴシックと二つに分類することが多いが、フォント作りの現場では、「角」と「丸」に分け、先述した明朝体とあわせて、「基本3書体」と呼んでいる。