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 日本人は現金が好きだ。マネタリーベース(日銀の供給する通貨)の約20%が紙幣で、その90%以上が1万円札だ。これは先進国では飛び抜けて多く、決済機能の電子化が遅れる原因になっている。今年(2019年)10月に予定されている消費税の増税と同時に、キャッシュレス決済に最大5%の「ポイント還元」が行われるのは現金を廃止する第一歩だが、もっと効果的な方法がある。

日本人はなぜ現金が好きなのか

 なぜ日本人の現金志向がこんなに強いのかは謎だが、確実にいえるのは通貨への信頼が強いことだ。海外では100ドル札のような高額紙幣は、偽札が混じっているのでめったに使われない。中国では、小売店に偽札識別機が置かれている。

 しかし日本で、1万円札を偽札と疑う小売店はまずない。コンビニではクレジットカードも電子マネーも使えるが、店内のATM(現金自動預け払い機)で現金をおろして使う。

 もう1つの隠れた理由は地下経済である。現金は銀行口座のように足がつかないので、脱税や資金洗浄に使われやすい。日本の地下経済の規模はGDPの約9%と推定され、そのほとんどは現金で保有されていると思われる。

 こういう問題を解決する簡単な方法は、現金を廃止して電子化することだ。一挙に紙幣を廃止することは国民の抵抗が強くて不可能だが、徐々にやる方法がある。紙幣に課税するのだ。

 これは20世紀の初めに「スタンプつき紙幣」として提案され、ケインズも『一般理論』で紹介した。紙幣に毎月スタンプを押さないと使えないようにすると、人々は紙幣をもつコストを節約して、それを消費に使うという発想はいいのだが、現実には無理だと思われていた。

 だが電子決済を使えば、こういう課税は容易である。預金者の銀行口座からマイナス金利を取ればいいのだ。普通の銀行預金にはプラスの金利がつくが、その逆に銀行がATM手数料のような金利を差し引けばいい。

 銀行がマイナス金利を取るのは預金者の怒りを買うから、その理由をつくるためには銀行の預金コストを上げればいい。これはいま日銀のやっているマイナス金利政策の延長で可能だ(ケネス・ロゴフ『現金の呪い──紙幣をいつ廃止するか?』参照)。