徴用工問題では、日本からの徴用工への補償については1965年の日韓請求権協定で「解決済み」とされていたものを、韓国最高裁は新日本製鉄に対し、韓国人元徴用工に対する損害賠償を命じた判決を下しました。これまでの両国の交渉の積み上げの成果を一気に壊してしまったわけですが、これについて文在寅大統領は「韓国にも三権分立はある」といって、司法への介入はあり得ないと語っています。

 ところが、自身の側近で、慶尚南道の知事だった金慶洙(キム・ギョンス)が大統領選の際の世論操作の疑いで逮捕され、懲役2年の実刑判決が下されました。まさか有罪判決が下るとは夢にも思っていなかった与党「共に民主党」の人々は一斉に裁判所批判を展開。「この判決を下した判事を弾劾すべきだ」との声まで上がるようになったのです。

 文在寅政権は、日本に対しては「司法の判断には従わなきゃいけない」と発言していたのに、自分たちが気に入らない司法判断には従わなくていい、と腹の中では思っていることが明らかになりました。要するに、文在寅大統領とその取り巻きたちは、「正しいのは俺たちなんだ。だから、俺たちの言うことに従え」という発想が性根に染み付いた人たちなのです。

文在寅政権も作っていた「ブラックリスト」

「文在寅政権の本質」が発揮された例はまだあります。

 文大統領の前任者・朴槿恵氏が政権の座にあった時、政府機関を動員し、左翼的な文化人・芸術家をあぶりだすブラックリストを作成していたことが明らかになり、大きな批判を浴びました。もちろん、「共に民主党」の代表だった文在寅氏も強烈に批判していました。

 ところがいざ自分が政権の座に座るとどうか。大統領府の指示の下、政府系企業や官庁の外郭団体の幹部の政治的傾向を分析したブラックリストを作成。前政権関係者と目された民間人を、特別監察班をつかって監察している実態が明らかになりつつあります。朴槿恵政権のブラックリスト作成をあれだけ批判しておきながら、自分たちも同じことをやっているのです。これも、「俺たちがやることは正しい、お前たちがやることはけしからん」の発想だからできてしまうのです。

 もう一つ付け加えるなら、文在寅大統領の娘夫婦がタイに移住した一件もそうです。青瓦台は公式には論評していませんが、非公式レベルでは「大統領の娘でも海外に移住することは法的に問題ない」と言います。しかし、父の政権の下の韓国はそれほど住みにくい国なのでしょうか。さらに、「大統領娘一家は経済的に苦しい状況にある。それで働き口を見つけるためにタイに移住した。それだけクリーンな政権ということだ」と説明しています。ところが、文大統領の長男の政府機関への就職についても最近政権の後押しがあったと取り沙汰されているようです。

 とにかく、その説明を丸ごと信じろというのは無理があります。娘が出国前に、夫から譲り受けていたマンションを売却した経緯、夫の勤務先のゲーム会社が政府から約20億円の支援金を受け取っていて(但し、それは大統領就任前だと言われています)、そのうち3億円ほどは疑わしい点があるのではないかとも指摘されていますが、こうした疑惑についても、明確な説明はありません。説明責任を果たしていないと指摘されても仕方がないような状況です。

 こうした面に着目すれば、現在の韓国は、建前上は法治国家ではあっても、文政権になってから現実的には独裁国家的様相を強めているように見えます。しかも、警察、検察、国家情報院といった権力機関の改革に乗り出しており、ここでも自分たちに都合のいいように変えようという意図がうかがえます。これもまた、文在寅政権が「俺たちは全て正しい、お前たちが間違っているんだ」という発想に凝り固まっているからなのです。

 われわれ日本人にとっては、非常に厄介な思考の持ち主が隣国の大統領になってしまったわけですが、このような彼の発想の本質的部分を理解したうえで、文在寅という人物と付き合っていかなければなりません。