(大倉 隆弘:企業広報コンサルタント)

 ずいぶん潮目が変わってきたなと感じました。ネットの世論形成の話です。

 先日、牛丼チェーン「すき家」で起こったバカッター事件がテレビで取り上げられてちょっとした騒動になりました。アルバイト店員が客のいない店でふざけ合う映像をネットに投稿して炎上した一件です。

 ひと昔前なら、店員の愚行もさることながら、「店員教育がなっとらん」と、すき家を運営する会社が叩かれていたところですが、この事件について多くのネット民は思いのほか公平な目で見ているようです。すき家も過去の労務問題を引き合いに叩かれる一方で、アルバイト店員の愚行の方はもっと激しく叩かれています。店の名誉を傷つけたのだから威力業務妨害で訴えろ、損害賠償を請求せよ、という意見もありました。

 兵庫県の明石市長の暴言騒動でも同じ傾向が見られます。道路拡張のためのビル買収が進んでいないことについて市長が担当職員を呼び付けて暴言を浴びせたというのですが、それは2年も前の話。なぜ今さらそのときの録音を暴露するのかといえば、この4月に市長選を控えているんですね。この市長を落としてやろうという陰謀があったことは想像に難くないところです。そんな思惑通りまんまとメディアが動いて、当初は市長の暴言が批判を浴びました。けれども、大衆も馬鹿ではありませんでした。次第に職員の職務怠慢こそがそもそもの原因なのではないかと多くの人が感じるようになり、この時期に音源を暴露した陰湿なやり方に批判が集まっています。

 最終的に市長は過激な発言の責任をとって辞任ということになりましたが、市長に同情する声は引きも切りません。

ネットでの世論形成に大きな変化

 筆者は企業広報のコンサルティングを生業としています。製造業と流通業で1980年代後半から足かけ四半世紀にわたってメディア対応の任にあたり、紙と電波の時代から、ネットがメディアやオーディエンスに大きな変化をもたらした時期を通じて、時代ごとの最適なメディア広報の仕方を模索して実践してきました。

 その経験から、ここ数年でネットでの世論形成に大きな変化が起こっているのを痛感しています。