官僚には産業育成は難しい

(高橋洋一:嘉悦大学教授)

 政府系ファンドである産業革新投資機構が1億円以上の役員報酬について、経済産業省と対立し、民間出身役員9人が辞任した。産業革新投資機構は国が資金を拠出し、最大2兆円を運用能力がある。

 筆者は、株式投資は官でできるはずないという意見を持っている。そこで、30年以上も前、経産省の行う「産業政策」は意味がないという内容の学術論文で書いている。当時、大蔵省から公正取引委員会事務局に出向していたときで、官僚に産業の動向等見通せるはずがないので、産業育成なんて無理であるというものだ。

産業育成のための官民ファンドが成功しない理由

 政府ができないことの典型例として株式投資がある。そもそも、政府が行うといっても、官僚は市場に関することに疎い。官僚自らが、株式投資できないのは明らかなので、民間から専門家を官に持ってきて、官の組織で株式投資をしようと思うのが、官民ファンドである。しかし、それでも、民主主義プロセスでは、失敗時の責任取り方について、国民が納得する方法はない。このため、国がかなりの程度関与せざるを得なくなる。となると、民間から来た人は不自由になって力が発揮できなくなり、結局失敗することになる。

 こうした筆者の考え方からいえば、産業育成をするために株式投資を行う産業革新投資機構は、もっとも官でやってはいけないものである。

 もともとは、2009年に産業革新投資機構の前進である産業革新機構が誕生している。リーマンショック後の企業救済としては受け入れられた。15年の設置期間で2025年までだった、昨年それが9年延長され、2034年までになった。そして、今の産業革新投資機構が9月から発足した。本来であれば、この延長はすべきでなかった。そうすれば、産業革新投資機構もなく、こうした醜態をさらすことはなかった。この際、経産省は、産業革新投資機構の後任役員人事をせずに、このまま産業革新投資機構を閉鎖すれば、今回の事件も結果オーライである。

 今回のドタバタ劇は、筆者の従来の考え方が間違っていなかったことを示しているように見える。産業革新投資機構の田中社長の記者会見(https://www.j-ic.co.jp/jp/news/pdf/JIC_CEO_20181210.pdf ;
https://www.sankei.com/politics/news/181210/plt1812100008-n1.html)と、その後の世耕経産大臣の記者会見(https://www.sankei.com/economy/news/181210/ecn1812100024-n1.html)から、官民ファンド自体が成り立ちにくいことを見てみよう。

 これを見ると、官と民の間で、まったくコミュニケーションが成立していないことがわかる。これは、技術的な話法というレベルではなく、官と民でよって立つべきルールが違うことからくる、埋めがたく本質的な違いである。

日産取締役会、ゴーン会長の解任を決定 全会一致で

仏パリでフランスのブリュノ・ルメール経済・財務相(右)と会談した世耕弘成経済産業相(左。2018年11月22日撮影)。(c)ERIC PIERMONT / AFP 〔AFPBB News

 問題となっている役員報酬について、田中社長は、経産省官房長から文書で示されたものを取締役会で決議したと記者会見で述べた。しかし、その後、文書で示されたものが白紙撤回されたので、政府と間の信頼関係がなくなったという。このプロセスについて、「日本は法治国家なのか」と疑問視している。